「バスク、真夏の死」

本棚に積ん読状態だったトレヴェニアンの旧作を読む。原題は「カーチャの夏」(The Summer of Katya)。前半はラブストーリーだが、後半はスリラーで、訳者後書きを引用すれば、「バスクという特異な地方色を濃厚に盛り込んだ恋愛小説仕立ての精神分析学的スリラー」ということになる。これを読むと、「ワイオミングの惨劇」の主人公の設定に納得できる。そうか、トレヴェニアンはこういう部分に元々興味があったのか。

第2次大戦前のフランス、バスク地方が舞台。村の診療所に勤める新米医師のジャン=マルク・モンジャンは大戦前の最後の夏、カーチャと名乗る美しい女性に出会う。双子の弟が事故で鎖骨を骨折したので、家まで治療に来てくれと頼まれるのだ。カーチャの家族は2.6キロ離れた山荘に住み、弟のポールと中世の研究に打ち込む父親のムッシュー・トレビルの3人で質素に暮らしていた。カーチャの美しさに惹かれたモンジャンは毎日、山荘に通うようになり、2人の愛は深まる。しかし、ポールは「姉を愛してはいけない。それを父親に知られてもいけない」と警告する。そしてなぜか一家は1週間後によそに引っ越すことになる。

クライマックス、狂騒的で郷愁を呼ぶバスク地方の祭りのシーンから一転してショッキングで悲劇的な真相が明らかになる。終盤の説明のシーンはちょっと長すぎるし、この趣向はいくつも前例がある。それでもこの小説が魅力的なのは地方色がふんだんに盛り込まれているためか。

トレヴェニアンの小説はこれまで「夢果つる街」しか読んでいなかった。「このミステリーがすごい!」1988年版の1位になった警察小説だが、僕にはあまり印象が強くなかった。これを機会に再読してみようかと思う。