「凡人として生きるということ」

「凡人として生きるということ」

「凡人として生きるということ」

週刊金曜日で紹介されていた「貧困肥満 下流ほど太る新階級社会」を買いに書店に行ったが、なかった。新書コーナーで代わりに見つけたのがこの本。押井守監督が昨年7月、「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」公開前に出した本で、180ページ足らずなので、すぐに読み終わる。

これも「スカイ・クロラ」同様に若者へのメッセージだ。「若さに価値などない」「すべて巧妙につくられたデマ」という主張から始まって、「金や名声よりも必要なのは美学と情熱」「勝負は諦めた時に負けが決まる」「社会に出ることは必要」「友だちなんかいらない」など著者の主張が体験を交えて語られていく。押井守は高校時代に引きこもりに近い生活を送っていたそうだ。それは他人と話すよりも1人で過ごすことの方が好きだったからだという。

押井守のアニメには友情や正義を真正面から取り上げたものはないし、そうした真正直なキャラクターもいない。それはこうした考え方が根底にあるためなのだろう。宮崎駿のネガのような在り方と言えようか。それでも僕は両者のアニメのどちらも好きだ。昨年公開の映画で言えば、「崖の上のポニョ」よりも「スカイ・クロラ」を高く評価する。だが、次のような一節を読むと、両者の考え方は近いのではないかと思う。

天才の身でない我々は、情熱を持ち続けることしか、この世を渡っていく術がないのだ。情熱さえあれば、貧乏も苦難も乗り越えられるだろう。『名もなく貧しく美しく』の話を先に書いたが、金や名声を追っていけば、それが失われたときには人は堕落する。だが、自分の美学と情熱があれば、富と名声に煩わされることなく生きていける。

この後の章で押井守は「いい加減に生きよう」と主張しているけれど、いい加減な生き方では美学と情熱を持ち続けることも難しいのではないか。ここで言ういい加減とは世間的ないい加減であって、自分に対しては誠実に生きることが必要なのだろう。

すべての人に必読の本ではないけれど、押井守ファンは読んでおいて損はないと思う。


「凡人として生きるということ」」への7件のフィードバック

  1. 45

    「世間的ないい加減であって、自分に対しては誠実に生きること」

    これ、すっごく大切なことですね。
    自分に対しての誠実さを持ち続けていれば、必ず生きていくうえで周りとの辻褄合わせに迷うことも、つまづくこともあるでしょう。
    それは自分自身にたいして開き直ってないからそうなるのでしょうし、またそうであるということは大切な人に対しても自然に情熱を持って接することができるでしょう。
    それはいくつになっても大事なことだし、そうありたいです。

    近頃の諸々で、自分自身(その人自身)のどんな気持ちも肉親であっても他人には決して理解できない、ということを痛いほど、イヤというほど身を持って知りました。
    そんなことは当たり前だ、と分かっていましたが、自分の中で一生かかっても整理しきれない出来事にあうと、そんな気持ちが後ろ向きにも前向きにも感じられるという、実に困った精神状態だったのですが、hiroさんが見つけたこういう言葉に、やけにちゃんと反応できるのはカスカスながらも前向きになれつつある兆しなのかもしれません。

    とても素敵な言葉を読むことができて良かったです。
    ありがとうございました。

    スカイクロラはまだちゃんと観てませんが・・・・

  2. hiro 投稿作成者

    ちょっと補足しておきますと、押井守は格差社会の問題を指摘する風潮に疑問を呈しています。完全に平等な社会を目指すと、ポル・ポト政権のカンボジアのようなことになるからです。社会の原理原則に縛られて四角四面に生きるよりも、そこから少し外れた緩やかな生き方の方が良いということですね。

    「スカイ・クロラ」、DVDで見直してみてくださいませ(^^ゞ

  3. クラシック

    若い頃から、いわゆる「人生論」、「生き方論」を読んだり信じたりすることはしていませんでした。
    この年になったら、なお一層関心を持つことはないだろうと思います。

    「生き方を求める」のではなく、その人(作者)のかんがえかたを知るために読むことの方が多いです。

    銀座一流クラブのママが語る「一流の男の・・・」なんてタイトルを見ただけで、読む気がなくなる私です。

  4. 45

    どうでも良いことなのですが、クラシックさんが言われるような「人生論」「生き方論」などを、そのまま読む人がいる、というのが浅い、というかいつまでたってもそういうものが無くならない理由ですよねぇ。
    それ、素直だからとかじゃないもん。

    同じことばでも私が感じたことと、hiroさんが感じたことは随分違うように思えます。
    それは、それぞれが同じ言葉をそれぞれに噛み締めて消化して自分自身の言葉にするから。
    銀座の一流クラブのママが語る・・・それってただの自分の好みじゃんねぇ!
    馬鹿やろうめー、ってか私も適当なタイトルつけてその手のもの売れないかしら(笑)

  5. hiro 投稿作成者

    関心があるのは生き方ではなく、その人の考え方なんですよね。
    生き方論と真正面から言われると、読む気をなくしますが、さまざまな人のエッセイでさまざまな生き方は読んできました。エッセイというのはその人のものの考え方や生き方を吐露したものにほかならないと思います。

  6. mk

    押井守にしても、宮崎駿にしても、それぞれの方向に尖ってって、
    尖りながらも大成功してるってのは、やっぱり才能の部分大きいよな、って
    真の凡人は思うのですけど(00ゞ

    若者(もー遅いか?)としては、情熱と信念、せめて大事にします・・・

  7. hiro 投稿作成者

    情熱や美学を持ち続けることも才能なのでしょうね。
    たいていの人はどこかで妥協しますから(^^ゞ

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