「本音を申せば」

鹿児島のOさんからの手紙に「もう買いましたか」と書かれていた。小林信彦の週刊文春のエッセイをまとめた本のことである。Oさんも小林信彦のファンで以前、電話で「昨年の分はまだ出ないんですかね」という話をしていた。これで7冊目だそうである。

毎年この本を買うのは僕自身の映画の見方が間違っていないかどうかを確認するためにほかならない。映画に関する文章は多くはないが、意見が合っているとホッとするのだ。

例えば、「コールドマウンテン」について小林信彦はこう書く。

この映画は<ハリウッド久々のメロドラマ>という風に喧伝されていて、物語の骨格はそうなのだが、実は反戦映画だと思う。

僕はこう書いている。「そうした女たちの目から見た戦争批判をこの映画はさらりと描いている。この軸足を少しもぶれさせなかったことで、映画は凡百のラブストーリーを軽く超えていく」。まあまあではないか。

「華氏911」については

ドキュメンタリーとしてフェアでない、という人もいるが、<完全にフェアなドキュメンタリー>なんてあるのか。

僕は「内容に偏りがあるという批判は分かるが、主義主張を込めないドキュメンタリーには意味がない」。

ただ、「ハウルの動く城」について、「語りたい強烈なエネルギーがない」とした上で「自分の体験からみて、これは作者が<枯れた>からだ、と感じた」という指摘は僕にはできない。だから分かったような分からないような感想にしかならないのだなあと反省する。

小林信彦は以前からこの連載をクロニクルと位置づけている。連載は8年目に入った。小泉政権や中越地震に関するタイムリーな文章が収められたこの連載はもう立派なクロニクルだと思う。後世の人はこの本を読んで、小泉純一郎という総理の下の日本はなんとひどい国だったかと思うことだろう。