「終わりで大きく儲かる『つみたて投資』」

投資信託積み立てのメリットを初心者向けに分かりやすく解説した好著だと思う。投信の価格(基準価額)を気にする必要はなく、基準価額が積み立てスタート時から半分になっても利益を出すことはできるという仕組みがよく分かる。マイナス金利政策によって預金金利も下がったし、投資信託を始めてみようかと考える人の背中をこの本は押してくれるだろう。

基準価額が半分になっても利益が出るにはそれまでに基準価額が上下の値動きを繰り返す必要がある。右肩下がりに基準価額が下がったまま回復しなければ、当然のことながら利益は出ない。底値から回復した場合に利益が出るのだ。

投資信託の評価額=保有口数×基準価額

本書で紹介しているこの計算式は投信を保有している人には常識だ。半値以下に下がった時にも積み立てを続けていれば、口数を多く買える。そうすると、価額が上がった場合の回復力が大きくなる。

投信を保有している人なら以下の計算式も常識だろう。

投資の損益=(保有口数×基準価額)-(保有口数×取得単価)

取得単価が基準価額より低ければ利益が出ており、逆なら元本割れをしているということ。気にすべきなのは基準価額ではなく、基準価額と取得単価との価格差だ。基準価額が右肩上がりならば、取得単価も徐々に上がっていく。右肩下がりなら取得単価も下がっていく。だから基準価額が半分になっても、毎月投資をしていれば、取得単価も下がっているので、儲かる場合がある。取得単価は以下の式で計算できる。

取得単価=(投資額÷保有口数)×10000

できるだけ取得単価を低く抑えるには基準価額が下がっている時にこそ積立投資を続ける必要がある。価格が下がった時に買い下がるナンピン買いは株式では良くないとされる。単一銘柄の株価が再び上昇するとは限らず、傷口を広げる恐れがある(たいてい、そうなる)からだ。経済評論家の山崎元さんに言わせると、株式の買値にこだわるのは素人で、ナンピン買いをするぐらいなら別の銘柄に投資した方がいい、ということになる。

投資信託への投資は異なる。世界経済はこれまで上下を繰り返しながら成長してきた。その成長に連動する投資信託への投資(インデックス投資)は取得単価を下げるためにむしろナンピン買いを積極的に行う必要がある。毎月の積立投資はそれを自動的にやってくれる。

こういうことをシミュレーションを交えて具体的に分かりやすく書いてあるのがこの本の大きな美点だ。著者は積立投資にはつきもののドルコスト平均法という言葉さえ使っていない。ポートフォリオという言葉もない。これには感心する。物事を易しい言葉で分かりやすく説明するのは難しいことだ。

本書で推奨しているのは少なくとも10年以上にわたる長期投資で、投資の対象は世界株式全体。これまで世界の株式市場は成長時期が5年から10年ぐらい続くと暴落し、そこから回復してきた。前回の暴落は2008年のリーマン・ショックだから、もはやいつ暴落してもおかしくない時期に来ている。1年も2年も元本割れの期間が続くと、気持ちが萎えてくるだろうが、そういう時にこの本は支えになってくれるだろう。暴落したら「終わりで大きく儲かる」ためのチャンス到来なわけである。

【amazon】終わりで大きく儲かる「つみたて投資」 (講談社+α新書)