リチャード・マシスンの短編集。13編収録されているが、バラエティに富んでいてどれも面白く、買って損のない短編集だ。
表題作はキャメロン・ディアス主演映画の原作。ボタンを押せば5万ドルもらえる代わりに誰か知らない人間が死ぬ。その装置を預けられた夫婦はどうするか、という話。20ページと短く、ショートショートによくあるようなオチが付いている。これを映画にするには相当に膨らませなくてはいけないだろう。リチャード・ケリーが監督した映画は日本では5月に公開されるが、IMDBで5.9と低い点数が付いている。膨らませ方を間違ったのかもしれない。この監督、「高慢と偏見とゾンビ」も監督するという。この原作も面白いのに期待薄か。
マシスンの長編は「地獄の家」(「ヘルハウス」の原作)「ある日どこかで」「吸血鬼」(「アイ・アム・レジェンド」原作)「縮みゆく人間」「奇蹟の輝き」「激突」など映画化作品が多い。短編もテレビの「ミステリーゾーン」などで相当に映像化されている。その数は作家の中では一、二を争うのではないか。この短編集の収録作品では表題作のほか、「針」「死の部屋のなかで」「四角い墓場」「二万フィートの悪夢」が映像化されたそうだ。この中で最も有名なのはオムニバス「トワイライト・ゾーン 超次元の体験」の第4話となった「二万フィートの悪夢」だろう。ジョージ・ミラーが監督した映画はジョン・リスゴーが飛行機恐怖症の男を演じて面白かった。脚本もマシスンが書いたそうだが、原作を読んでみると、ほぼ原作通りの映画化だったことが分かる。
「四角い墓場」はリー・マービン主演で「ミステリーゾーン」の枠で映像化されたという。アンドロイド同士のボクシングの試合に、壊れたアンドロイドの代わりに出場する羽目になった男の話。鋼鉄(スティール)のケリーと言われた元ボクサーの主人公は男気があって、いかにもリー・マービンらしいキャラクターなので、映像化作品も評判がいいそうだ。これはヒュー・ジャックマン主演、ショーン・レヴィ監督で「Real Steel」として映画化が決まっている。公開は2011年秋。今のVFXを使えば、リアルなアンドロイドが見られるだろう。
このほか、殺しても殺しても帰ってくる「小犬」、不気味な「戸口に立つ少女」の2編のホラー作品も良い。映像化作品が多い作家というと、冒険小説ファンならアリステア・マクリーンを思い出すだろう。「女王陛下のユリシーズ号」など硬派の作品を書いていたマクリーンは後年、映像化をあてにしたような作品が多くなって映画原作屋とも言われたが、マシスンの場合はこの短編集を読むと、単に原作が面白すぎるから映像化作品が多いのだということがよく分かる。
マシスンは1926年2月生まれだから84歳。もう新作は無理だろうが、過去の作品はどれも古びていない。未訳の短編を今後も出版してほしいものだ。
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