「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」

「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」

「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」

マイケル・バーリが登場する第2章「隻眼の相場師」から引き込まれるようにして読んだ。バーリは子供の頃に病気で左目の眼球を摘出された。医師になったバーリは人並み外れた集中力と分析力で株式投資に抜群の才能を発揮し、ヘッジファンドのサイオン・キャピタルを立ち上げる。そしてサブプライム・モーゲージ債の破綻を予測して、空売り(ショート)を仕掛けることになる。

複雑な感動を残すこの傑作ノンフィクションには空売りを仕掛ける3組の男たちが登場するが、最も印象的なのはこのマイケル・バーリだ。バーリは子供の頃から自分が他人と少し違っていることを自覚してきたが、それは自分の義眼のせいだと考えていた。35歳の頃、自分の子供がアスペルガー症候群と診断され、アスペルガー関係の書籍を読んで、自分もまたアスペルガー症候群であることを知る。

“視線を合わせることなど、言葉を用いない多様な行動に、著しい欠陥が見られる……”
当てはまる
“同年代の友人関係が築けない……”
当てはまる
“楽しみや興味、あるいは達成感などを、他人と分かち合おうという自発性に欠け……”
当てはまる
“相手の目つきから、社会的もしくは情緒的もしくはその両方のメッセージを読み取るのが困難……”
当てはまる

バーリはジェームズ・グレアムやウォーレン・バフェットと同じくファンダメンタルズを重視したバリュー投資家であり、企業の財務資料を読むのにはアスペルガー症候群であるがゆえの集中力の高さが利点となっていた。バフェットと違うのは人付き合いが苦手なことだが、これは個人が株式投資をする限りにおいては欠点にはならない。問題は凡人であるファンドの顧客たちがバーリの行動を理解しなかったことだ。

サブプライム・モーゲージ債の破綻を予測したのが一番早かったかどうかは分からないが、一番早く動いたのがバーリであったことは間違いないだろう。バーリはゴールドマン・サックスなどの投資銀行にモーゲージ債の保険となるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を販売するよう提案し、これを大量に購入する。モーゲージ債が破綻すれば、巨額の利益を手に入れることができる。

モーゲージ債にはムーディーズなどの格付け会社がトリプルAを付けていた。CDSの大量購入はそれに反しているばかりか、金融システムの崩壊に賭けることを意味する。もし、万が一、モーゲージ債が破綻するにしても、それまでは毎月保険料(プレミアム)を支払わなければならず、損失が続くことになる。実際、サイオン・キャピタルは損失を出し続けるようになり、顧客たちはバーリを公然と非難するようになる。

「わたしに最も近い共同出資者は、いずれ必ずわたしを憎むことになるような気がする。……この事業は、人生のかなり大事な部分を殺してしまう。問題は、殺されたのが何なのか、見きわめられないことだ。しかし、人生に欠かせない何かが、わたしの中で死んだ。わたしは、それを感じることができる」。

もちろん、サブプライム・モーゲージ債は破綻し、結果的にバーリは顧客に出資額の2倍以上の利益をもたらすが、顧客たちは礼の一つも言わなかった。バーリは金融市場にすっかり興味を失い、静かに退場していく。

著者のマイケル・ルイスはサブプライムローン問題の全体像を描きながら、周囲に理解されない孤独な天才投資家の姿を鮮やかに浮かび上がらせている。天才であるがゆえの孤独と苦悩。バーリの姿は悲劇的ではあるが、深い関心と共感を持たずにはいられない。バーリは2012年3月にフェイスブックに登録している(Burry)。ほとんど書き込みはしてない。SNSでの交流には興味を持てないのだろう。

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