ノンフィクション」カテゴリーアーカイブ

「やってはいけないウォーキング」

タイトルはウォーキングそのものをやってはいけないという意味ではなく、効果のない、あるいは体に害を及ぼすような悪いウォーキングの仕方をやってはいけないという意味だ。ウォーキング関係の本は何冊か読んだが、それぞれに著者独自の主張が書いてあって、どういう歩き方をすれば良いのか、よく分からなくなってくる。一般論に自分がやっているウォーキングの方法を付け加えて書いた本がほとんどなのである。この本のメリットは5000人を15年間、追跡調査した結果に基づいている点。実際に効果をあげたデータなら、信頼性は増すだろう。

それによると、「8000歩/20分」が最も良いウォーキングだそうだ。1日の歩数は8000歩、そのうち20分は中強度の歩きにする。これを続けた人には以下のような効果がある。

要支援、要介護、うつ病、認知症、心疾患、脳卒中、がん、動脈硬化、骨粗しょう症の発症率が低い。そして、高血圧、糖尿病の発症率が身体活動の低い人に比べて圧倒的に下がる。

効果があるのは「8000歩/20分」だけではない。「4000歩/5分」でも要支援・要介護を予防でき、うつ病にかかる人が少なくなる。「5000歩/7.5分」「7000歩/15分」と距離を伸ばすに従って、かかる病気は少なくなっていく。もっともメタボリックシンドロームの人はやはり1日10000歩が必要とのこと。

中強度の歩き方とは「なんとか会話ができる程度」の速歩き。大またで歩くといいそうだ。また、散歩の時間以外の過ごし方も重要。ウォーキングで疲れたからといって、後の時間をダラダラ過ごすと、効果はない。

僕はいつも犬の散歩をしているけれど、20分間、大またで歩くのはけっこう大変だ。これは1日で20分間、中強度の歩き方をすればいいそうなので、散歩のほかに普段歩く時も大またを心がけて20分に達すればいいのだろう。

散歩の時にはスマホで歩いた距離を測っている。それ以外はスマホをいつも持ち歩いているわけではないので1日に歩いたトータルの距離は分からない。というわけで活動量計を買うことにした。オムロンのHJA-403C-BKカロリスキャン。「階段上り歩数」と「早歩き歩数」を個別にカウントできるのがいいし、1年前に発売されたもので当初の価格より2000円ほど安くなっている。

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「スローカーブを、もう一球」

山際淳司さんも「パック・イン・ミュージック」を聞いていたのかもしれない。本書に収録された「たった一人のオリンピック」を読んでそう思った。野沢那智&白石冬美の深夜放送「パック・イン・ミュージック」で「ボートの津田」が話題を呼んでいた頃、よく聞いていた。津田選手はある日突然、「オリンピック選手になろう」と決意して実際にボートのシングル・スカル日本代表になってしまった。恐らく津田選手の友人の投書が発端だったのだろうが、津田選手の話題は断続的に続いていった。よほど運と才能に恵まれた人なのだろうな、と当時は思っていた。

本書を読んで、それが誤解であったことが分かった。いくら競技人口の少ないボートでも、いくら体格に恵まれていても、それだけでオリンピック選手になれるはずはないのだ。津田選手はアルバイトしをながら20代の後半をボートの練習に捧げる。念願のオリンピックの代表になるが、モスクワオリンピックへの参加を日本政府はボイコットしてしまう。

有名な「江夏の21球」をはじめ8編のスポーツノンフィクションを収録してある。表題作の「スローカーブを、もう一球」は進学校の群馬県立高崎高校が関東大会を勝ち進んで、センバツ甲子園に出場する話。甲子園出場なんて予算も考えもしなかった高校の奮闘は高橋秀実「弱くても勝てます」を彷彿させる。いや、「弱くても勝てます」はこの作品の影響もあるのではないかと思ってしまう。バッティング投手を取り上げた「背番号94」、小柄な棒高跳び選手を描く「ポール・ヴォルター」も心に残る。

「ポール・ヴォルター」の中で山際さんはこう書いている。

ふと思い出した台詞がある。
ヘミングウェイが、ある短編小説の中でこんな風にいっているのだ。
「スポーツは公明正大に勝つことを教えてくれるし、またスポーツは威厳をもって負けることも教えてくれるのだ。
要するに……」
といって、彼は続けていう。
「スポーツはすべてのことを、つまり、人生ってやつを教えてくれるんだ」
悪くはない台詞だ。

「競馬は人生の比喩だ」と言った人がいる。競馬に限らず、スポーツは人生の比喩なのだろう。山際さんのノンフィクションはそれに加えて選手の人生の断面を鮮やかに切り取っている。30年以上前の作品だが、まったく古びていない。それどころか、今も輝きを放っている。当然のことながら、社会風俗は古びても人の考え方は古びないのだ。

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「慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件」

100年前の1915年12月、北海道の苫前村三毛別で起こったヒグマ襲撃事件を描いたノンフィクション。解説の増田俊也は「永劫語り継がれる大傑作ノンフィクション」と書いている。そこまでとは思わなかったが、事件の詳細を記録した大変貴重な読み物であることは間違いない。Wikipediaのこの事件の項目はほとんどこの本からの引用で書かれているほどだ。7人が犠牲になったという世界でもまれな動物襲撃事件であり、ヒグマの恐ろしさを強烈に実感させられる。

襲ってきたヒグマは体長2.7メートル、体重340キロ、推定7、8歳の雄だった。まず家の中にいた2人の男女が殺される。家といっても開拓民の掘っ立て小屋のようなものだから、侵入はたやすい。このうち1人は殺された後、咥えて連れ去られ、完膚なきまでに喰い尽くされ、埋められているのを発見された。さらにその2人の通夜の席をヒグマが襲い、4人が犠牲になる。襲われた時に臨月だった妊婦の胎児(クマに腹を割かれ、掻き出された)を含めて犠牲者は7人、さらにこの時負った大けがのために2年8カ月後に死んだ1人を含めると8人となる。

執拗な熊はタケを見つけ、爪をかけて居間のなかほどに引きずり出した。タケは明日にも生まれそうな臨月の身であった。
「腹破らんでくれ! 腹破らんでくれ!」
「喉食って殺して! 喉食って殺して!」
タケは力の限り叫び続けたが、やがて蚊の鳴くようなうなり声になって意識を失った。
熊はタケの腹を引き裂き、うごめく胎児を土間に掻きだして、やにわに彼女を上半身から食いだした。

第二部「ヒグマとの遭遇」は著者の別の本「ヒグマ そこが知りたい」から8章と9章を収録してある。この中で著者が指摘しているのはヒグマがとても執着心の強い動物であること。1970年の「福岡大ワンゲル部員日高山系遭難事件」は7回にわたってヒグマが部員たちを襲い、3人が犠牲になった(このうちの1人は興梠という姓だったので調べたら高千穂町出身の人だった)。3回も同じ家が襲撃された苫前村の事件と同じく、いったん狙われ、自分の所有物という認識を持たれたら、早々にその場を立ち去るしか助かる道はないのだ。音を立てて騒いでもダメ、火をたいてもダメ、熊よけスプレーもそんなに効果はない。おまけに背中を見せて逃げると、追いかけられることになるという。そろそろと後ずさりして逃げた方がいいそうだ。

苫前村の事件では馬小屋に馬もいたのに襲っていない。体長2メートルを超すヒグマにとって、馬よりも小さな人間の方がよほど与しやすい相手なのではないか。

本書は1965年に出版され、吉村昭の「羆嵐」など多くの作品に影響を与えた。文庫版は今年4月に出版された。著者の木村盛武氏は1920年生まれだから今年95歳。元営林署職員で現在は野生動物研究家の肩書きだ。まだまだお元気なようで今年2月現在でのあとがきを書いている。

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「理系の子 高校生科学オリンピックの青春」

ハードカバー版はノンフィクション書評サイトHONZが選ぶ2012年の第1位になり、最近、文庫化された。読んでいて目が潤んできたり、心地よくなったり、胸が熱くなってくる。なぜこんなに感動的なのだろうと考えて、理由が分かった。このノンフィクションに収められた中学・高校生たちの物語はどれもサクセス・ストーリーの構造になっているからだ。

賞金総額400万ドル(!)のインテル国際学生科学フェア(ISEF)に出場するのは約1500人。このノンフィクションに登場する子供たちすべてが受賞するわけではないが、それぞれに苦しい境遇の中で研究・開発を進め、大学の奨学金や賞金、そして何よりも自分が進むべき道を見つけることになる。スポーツだけでなく、科学でもアメリカンドリームは実現できるのだ。著者のジュディ・ダットンは子供たちの家族を含めて詳細な取材をし、温かい筆致の物語に仕上げた。

序章・終章を含めて全14章で11人の子供たちが登場する。僕が最も心を動かされたのは少女が馬の研究をする「ホース・セラピー」。主人公のキャトリン・ホーニグの父親ブルースは癌にかかるが、治療費がないためアメリカ国立衛生研究所で実験的な治療を受ける。投与された薬の副作用のため被験者15人の中で生き残ったのはブルースだけ。そのブルースも肺繊維症を発症し、肺の38%しか機能しなくなった。医者はブルースがなぜ生きているのか説明できないが、妻のジャネットはブルースが不屈の生命力を持ち、つましい生活を送ってきたからだ、と思っている。ブルースはキャトリンにこう言う。

「なにかというと医者は余命三カ月だと言うのだが、パパはそれをまちがいだと身をもって証明してきたんだよ。おまえが高校を卒業するのを見届けるまで、がんばる。そこまでいけたら、今度は大学を卒業するまでだな。その次は、おまえが結婚するまでもちこたえるつもりだよ」

治療費はかさみ、一家は25万ドル以上の借金を背負っている。生活は決して楽ではない。キャトリンは父親が大好きで幼いころから父親と一緒に馬の世話をしてきた。高校生になり、馬の利き脚と性格の関係を研究し始める。地域の農家を訪れ、データを集め、何カ月もの間、午前3時に起き、夜中に寝る生活を続ける。

投げだしそうになるたびに、父のことを思った。父は愚痴をこぼしたことがなかった。わたしだって。

しかし、キャトリンを不幸な事故が襲う。

このほか、先住民居留地のボロボロのトレーラーに住む少年が喘息の妹のために廃車のラジエーターと太陽光を利用した暖房器具を開発する「ゴミ捨て場の天才」、女優志望の美少女が一転して蜂の研究に没頭する「イライザと蜂」、ハンセン病と診断された少女が偏見と誤解をなくそうと奮闘する「わたしがハンセン病に?」など内容はバラエティに富んでいる。どれも読むと、前向きになり、勇気が出てくる。「理系の子」というタイトルからは理系の難しい内容を思わせるが、ジュディ・ダットンは研究の説明は最小限にして少年少女たちのドラマを構成している。むしろ文系の子に読んでもらいたい内容だ。

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「となりの億万長者 〔新版〕成功を生む7つの法則」

「となりの億万長者」(早川書房)は1997年に邦訳が出て版を重ね、今年8月に新版が出た。ロングセラーの名著ということだろう。1日で読み終わって、名著であるばかりか、とても感動的な本だと思った。

著者のトマス・J・スタンリーとウィリアム・D・ダンコはアメリカの資産100万ドル(約1億円)以上の億万長者を数多く調査し、意外な実態を明らかにする。普通、億万長者と聞いて思い浮かべるのは高級住宅街に住み、高級車を何台も持っていて、高級レストランやホテルに乗り付け、高級な服とアクセサリーを身にまとっているというイメージだろう。実態は違った。億万長者の多くは中流家庭が住む住宅地に住み、倹約をして質素な生活を送り、家計をしっかり管理して収入の15%を貯蓄と投資に充てていた。高級住宅街に住む多くの人は高所得ではあるけれど、低資産の人たちだった。

読んでいて「アリとキリギリス」の童話を思い浮かべずにはいられない。収入をあるだけ使ってしまい、見た目は華やかだが、将来の計画なしに浮わついた毎日を送るキリギリスではなく、億万長者の多くはアリのように堅実な生活を送っているのだ。

この本の中で著者は期待資産額という計算式を紹介している。現在の年収と年齢から期待できる資産を算出する。

期待資産額=税込み年収×年齢÷10

現在の金融資産が期待資産額を上回っている人は蓄財優等生、下回っている人は蓄財劣等生ということになる。アメリカと日本では税金や保険の料率が異なるので単純には適用できないが、一応の指標にはなるだろう。計算してみたら、僕の場合は全然足りなかった。蓄財劣等生であることを痛感した。

サブタイトルの億万長者に共通するポイント、つまり蓄財優等生になるために必要な「成功を生む七つの法則」は以下の通り。

(1)収入よりはるかに低い支出で生活する
(2)資産形成のために時間、エネルギー、金を効率よく分配する
(3)お金の心配をしないですむことの方が世間体を取り繕うよりもずっと重要と考える
(4)社会人となった後、親からの経済的援助を受けていない
(5)子供たちは経済的に自立している
(6)ビジネスチャンスをつかむのがうまい
(7)自分にぴったりの職業を選んでいる

どんなに高級品を買い、高級レストランで食事をしても、それはその人の見栄を満足させるだけで資産には何も結びつかない。高級車が資産になると思っている人は車の減価償却がいかに早いかを知らない人だ。「人は見た目が9割」という本があるけれど、人がどれほどの資産を持っているかを判断するのに見た目ほどあてにならないものはないということをこの本は教えてくれる。

本書の後半は子供への経済的援助がいかに子供をダメにするかを書いている。成人した子供に金を与えることは子供の経済的自立を阻む要因となる。子供や孫がかわいいと思って経済的援助を行うのは間違いだ。子供を経済的に自立させるかどうかは親の責任だ。40代になっても50代になっても親の資産をあてにするような子供は情けないし、親はこうした子供にしないために不用意に子供にお金を与えるべきではない。これは胸に刻んでおく必要がある。成功につながるかどうかはどうでもいい。この本は資産を持つ人も持たない人も読む価値のある本だと思う。

【amazon】となりの億万長者 〔新版〕 ― 成功を生む7つの法則