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「オッド・トーマスの霊感」

2009 年 4 月 26 日 日曜日
「オッド・トーマスの霊感」

「オッド・トーマスの霊感」

ミステリマガジン5月号でディーン・クーンツの熱烈なファンである瀬名秀明が「クーンツの集大成」と絶賛しているのが頭にあったので、先日、書店で見かけた際に買った。本書の解説も瀬名秀明が担当している。霊が見える青年が主人公の物語。それは「シックス・センス」のハーレイ・ジョエル・オスメントじゃないか、目新しい題材じゃないなと読む前は思い、それほど読む気にもならなかった。さすがクーンツだけに、あんな見始めて10分でネタが分かるような映画の二の舞にはなっていなかった。読み始めたら止まらないノンストップのサスペンス。

オッド・トーマスは死者の霊が見えるだけではない。人の死と結びつくボダッハと呼ばれる黒い悪霊が見える。ボダッハは人に危害は加えないが、人が暴力的な死を迎える際に集まり、そこから「なんらかの方法で栄養を吸収する」存在だ。だからボダッハが多く集まった所では近く災厄が起きる。ボダッハは殺人を犯す人間の周囲にも集まる。オッド・トーマスはダイナーで働く20歳を少し越えたばかりの青年。オッドが働くダイナーにある日、風変わりな客が来る。「異様に青白い顔の、ぼやけた目鼻立ち」の男はキノコを連想させた。そのキノコ男の周りに20匹を超えるボダッハが集まってきた。

男が町に災厄をもたらすと直感したオッドは男の住む家を調べ、男がエド・ゲインやチャールズ・マンソンら猟奇的な殺人者を崇拝していることを知る。そして8月15日に何かとんでもない災厄が起こると判断し、それを防ぐために奔走する。プロットはストレートだが、この物語が読ませるのはオッドとその周囲の人間たちが魅力的だからだ。

オッドは自分勝手で育児を放棄した最低の両親から生まれた。両親は今も健在だが、離婚しており、オッドも一緒には暮らしていない。本書の後半で、オッドは事件の手がかりを求めて父と母のもとを訪ねる。オッドが近く結婚すると聞いた母親は最初は祝福するが、頼みを持ち出した途端に怒り始める。他人と関わり合うのを嫌い、常軌を逸しているのだ。母親は憎悪をむき出しにしてこう言う。

「あんたが死んで生まれればいいって、あたしは何度も何度もそんな夢を見たのよ」
ぼくは震える体で立ち上がり、慎重にポーチの階段をおりはじめた。
ぼくの背後で、母は彼女にしかできないやり方で狂気のナイフを振るっていた。「あんたを身ごもっているあいだじゅう、あんたはあたしのなかで死んでると思っていた、死んで腐ってしまったって」

「あたしのなかで死んでたのよ」彼女は繰り返した。「何ヵ月も何ヵ月も、あたしのおなかのなかで死んだ胎児が腐って、あたしの身体じゅうに毒をばらまいていたのよ」

だからオッドにとっては恋人のストーミー・ルウェリンが心の支えだ。ストーミーは幼い頃に両親を事故で失い、孤児院で育った。オッドとストーミーはジプシーのミイラと呼ばれる占いの機械で「一生離れられない運命にある」との占いが出た。結婚に明確な返事をしてこなかったストーミーは事件が進む中でオッドのプロポーズを受け入れる。このほかオッドの能力を知る警察署長のワイアット・ポーター、アパートの大家でオッドを息子のように思っているロザリア・サンチェス、ダイナーの経営者のテリ・スタンボー、巨漢のミステリ作家リトル・オジーらがオッドのよき理解者となっている。

瀬名秀明は解説に「オッド・トーマス、きみは21世紀のヒーローだ」と書いている。オッドは霊を見ること以外に超人的な能力はなく、相手の攻撃に傷つきながらも災厄を防ぐために全力を挙げるのだ。本書はシリーズ化され、アメリカでは現在までに4作が出版されている。クーンツによれば、6作か7作になる予定という。シリーズの行く末を見極めたくなる面白さだった。瀬名秀明が解説で紹介しているオッド・トーマスの公式サイトはoddthomas.tvで、シリーズゼロのビデオを見ることができる。
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