「このミス」1位、文春2位に入ったジャック・リッチーの短編集。冒頭に収められた表題作は殺し屋の男の前にタイムマシンを発明したという男が現れ、殺人現場を見たと脅迫される話。1件だけならともかく3件の殺人現場について詳細に話すので、殺し屋は男の言葉を信用するようになる。そして25万ドルでタイムマシンを買い取ることにする。SFではないので、ちゃんと合理的な説明があり、ひねったストーリーが面白い。
本書には17編の短編およびショートショートが収録されている。特に前半に収められた「ルーレット必勝法」「歳はいくつだ」「日当22セント」はどれも巧みなストーリーテリングが光る傑作だと思う。個人的に面白かったのはショートショートの「殺人哲学者」で、最後のオチが秀逸。ショートショートのお手本みたいな話である。
巻末に収められた解説によれば、ジャック・リッチーは生前に350の短編を書いたが、アメリカでも生前に本にまとめられたのは1冊だけ。その1冊は映画「おかしな求婚」(1971年、エレイン・メイ監督)の原作となった短編を含む作品集で、映画公開に併せて編まれたものという。雑誌に掲載された短編を僕はあまり読まないが、こうした都会的なセンスにあふれたうまい短編集は時々読みたくなる。シオドア・スタージョン「輝く断片」も注文しようか。