‘経済・金融’ カテゴリーのアーカイブ

「終わりで大きく儲かる『つみたて投資』」

2016 年 2 月 10 日 水曜日

投資信託積み立てのメリットを初心者向けに分かりやすく解説した好著だと思う。投信の価格(基準価額)を気にする必要はなく、基準価額が積み立てスタート時から半分になっても利益を出すことはできるという仕組みがよく分かる。マイナス金利政策によって預金金利も下がったし、投資信託を始めてみようかと考える人の背中をこの本は押してくれるだろう。

基準価額が半分になっても利益が出るにはそれまでに基準価額が上下の値動きを繰り返す必要がある。右肩下がりに基準価額が下がったまま回復しなければ、当然のことながら利益は出ない。底値から回復した場合に利益が出るのだ。

投資信託の評価額=保有口数×基準価額

本書で紹介しているこの計算式は投信を保有している人には常識だ。半値以下に下がった時にも積み立てを続けていれば、口数を多く買える。そうすると、価額が上がった場合の回復力が大きくなる。

投信を保有している人なら以下の計算式も常識だろう。

投資の損益=(保有口数×基準価額)-(保有口数×取得単価)

取得単価が基準価額より低ければ利益が出ており、逆なら元本割れをしているということ。気にすべきなのは基準価額ではなく、基準価額と取得単価との価格差だ。基準価額が右肩上がりならば、取得単価も徐々に上がっていく。右肩下がりなら取得単価も下がっていく。だから基準価額が半分になっても、毎月投資をしていれば、取得単価も下がっているので、儲かる場合がある。取得単価は以下の式で計算できる。

取得単価=(投資額÷保有口数)×10000

できるだけ取得単価を低く抑えるには基準価額が下がっている時にこそ積立投資を続ける必要がある。価格が下がった時に買い下がるナンピン買いは株式では良くないとされる。単一銘柄の株価が再び上昇するとは限らず、傷口を広げる恐れがある(たいてい、そうなる)からだ。経済評論家の山崎元さんに言わせると、株式の買値にこだわるのは素人で、ナンピン買いをするぐらいなら別の銘柄に投資した方がいい、ということになる。

投資信託への投資は異なる。世界経済はこれまで上下を繰り返しながら成長してきた。その成長に連動する投資信託への投資(インデックス投資)は取得単価を下げるためにむしろナンピン買いを積極的に行う必要がある。毎月の積立投資はそれを自動的にやってくれる。

こういうことをシミュレーションを交えて具体的に分かりやすく書いてあるのがこの本の大きな美点だ。著者は積立投資にはつきもののドルコスト平均法という言葉さえ使っていない。ポートフォリオという言葉もない。これには感心する。物事を易しい言葉で分かりやすく説明するのは難しいことだ。

本書で推奨しているのは少なくとも10年以上にわたる長期投資で、投資の対象は世界株式全体。これまで世界の株式市場は成長時期が5年から10年ぐらい続くと暴落し、そこから回復してきた。前回の暴落は2008年のリーマン・ショックだから、もはやいつ暴落してもおかしくない時期に来ている。1年も2年も元本割れの期間が続くと、気持ちが萎えてくるだろうが、そういう時にこの本は支えになってくれるだろう。暴落したら「終わりで大きく儲かる」ためのチャンス到来なわけである。

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「となりの億万長者 〔新版〕成功を生む7つの法則」

2013 年 10 月 6 日 日曜日

「となりの億万長者」(早川書房)は1997年に邦訳が出て版を重ね、今年8月に新版が出た。ロングセラーの名著ということだろう。1日で読み終わって、名著であるばかりか、とても感動的な本だと思った。

著者のトマス・J・スタンリーとウィリアム・D・ダンコはアメリカの資産100万ドル(約1億円)以上の億万長者を数多く調査し、意外な実態を明らかにする。普通、億万長者と聞いて思い浮かべるのは高級住宅街に住み、高級車を何台も持っていて、高級レストランやホテルに乗り付け、高級な服とアクセサリーを身にまとっているというイメージだろう。実態は違った。億万長者の多くは中流家庭が住む住宅地に住み、倹約をして質素な生活を送り、家計をしっかり管理して収入の15%を貯蓄と投資に充てていた。高級住宅街に住む多くの人は高所得ではあるけれど、低資産の人たちだった。

読んでいて「アリとキリギリス」の童話を思い浮かべずにはいられない。収入をあるだけ使ってしまい、見た目は華やかだが、将来の計画なしに浮わついた毎日を送るキリギリスではなく、億万長者の多くはアリのように堅実な生活を送っているのだ。

この本の中で著者は期待資産額という計算式を紹介している。現在の年収と年齢から期待できる資産を算出する。

期待資産額=税込み年収×年齢÷10

現在の金融資産が期待資産額を上回っている人は蓄財優等生、下回っている人は蓄財劣等生ということになる。アメリカと日本では税金や保険の料率が異なるので単純には適用できないが、一応の指標にはなるだろう。計算してみたら、僕の場合は全然足りなかった。蓄財劣等生であることを痛感した。

サブタイトルの億万長者に共通するポイント、つまり蓄財優等生になるために必要な「成功を生む七つの法則」は以下の通り。

(1)収入よりはるかに低い支出で生活する
(2)資産形成のために時間、エネルギー、金を効率よく分配する
(3)お金の心配をしないですむことの方が世間体を取り繕うよりもずっと重要と考える
(4)社会人となった後、親からの経済的援助を受けていない
(5)子供たちは経済的に自立している
(6)ビジネスチャンスをつかむのがうまい
(7)自分にぴったりの職業を選んでいる

どんなに高級品を買い、高級レストランで食事をしても、それはその人の見栄を満足させるだけで資産には何も結びつかない。高級車が資産になると思っている人は車の減価償却がいかに早いかを知らない人だ。「人は見た目が9割」という本があるけれど、人がどれほどの資産を持っているかを判断するのに見た目ほどあてにならないものはないということをこの本は教えてくれる。

本書の後半は子供への経済的援助がいかに子供をダメにするかを書いている。成人した子供に金を与えることは子供の経済的自立を阻む要因となる。子供や孫がかわいいと思って経済的援助を行うのは間違いだ。子供を経済的に自立させるかどうかは親の責任だ。40代になっても50代になっても親の資産をあてにするような子供は情けないし、親はこうした子供にしないために不用意に子供にお金を与えるべきではない。これは胸に刻んでおく必要がある。成功につながるかどうかはどうでもいい。この本は資産を持つ人も持たない人も読む価値のある本だと思う。

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『今こそ「お金の教養」を身につけなさい』

2013 年 5 月 29 日 水曜日

サブタイトルは「稼ぎ、貯め、殖やす人の”37のルール” 」。お金に対する考え方の参考になればと思って読んだが、反面教師にしかならなかった。所々、引っかかりながら読み進んだら、第4章にこんなことが書いてあってあきれた。

そもそも、貧乏な人と付き合ったら、自分も貧乏になります。貧乏な人はそれなりの生活習慣を送っています。一緒にいると、その習慣が似てくるのです。

著者はお金を3倍増やす方法として良い人脈を作ることを勧める。いい人脈と情報は貯蓄や投資のチャンスを生むそうだ。それはそうかもしれないが、金持ちとだけ付き合って貧乏人と付き合うなという考え方は人間的にどうかと思う。人間関係を損得勘定だけで判断するのは器が余りにも小さすぎる。

著者の菅下清廣は会社代表で経済評論家、国際金融コンサルタント。裕福な家に生まれ、父親の事業失敗で一転して貧乏を経験した。貧乏から抜け出すために猛勉強したそうだが、成り上がる過程で著者と付き合ってくれた金持ちはいなかったのだろうか。

この考え方を著者に教えたのは研修でニューヨークへ行った際に教育係を務めた男(ポール・ニューマンに似ているのでポールと呼ぶ)。ポールはレストランの食器に自分の名前が刻まれているのを見せて、こう言う。「ミスター・スガシタ、君がウォール街で成功して大金持ちになるために、最も重要な要素は、グッド・ピープルだ」。悪い影響を受けたとしか思えないが、著者はそれ以来、海外旅行に行く際にファーストクラスや一流ホテルを使うようになった。

一度そのなかに身を置くと、彼ら・彼女らに近づこうという気持ちが嫌でも湧きます。
「ファーストクラスの顧客にふさわしい自分になろう」
と思うのです。そのために、私は一流の場にお金を投じることを勧めるのです。

ファーストクラスの乗客に著者のような考え方の持ち主が多かったら、効果はないだろう。

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「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」

2013 年 4 月 14 日 日曜日

「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」

「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」

マイケル・バーリが登場する第2章「隻眼の相場師」から引き込まれるようにして読んだ。バーリは子供の頃に病気で左目の眼球を摘出された。医師になったバーリは人並み外れた集中力と分析力で株式投資に抜群の才能を発揮し、ヘッジファンドのサイオン・キャピタルを立ち上げる。そしてサブプライム・モーゲージ債の破綻を予測して、空売り(ショート)を仕掛けることになる。

複雑な感動を残すこの傑作ノンフィクションには空売りを仕掛ける3組の男たちが登場するが、最も印象的なのはこのマイケル・バーリだ。バーリは子供の頃から自分が他人と少し違っていることを自覚してきたが、それは自分の義眼のせいだと考えていた。35歳の頃、自分の子供がアスペルガー症候群と診断され、アスペルガー関係の書籍を読んで、自分もまたアスペルガー症候群であることを知る。

“視線を合わせることなど、言葉を用いない多様な行動に、著しい欠陥が見られる……”
当てはまる
“同年代の友人関係が築けない……”
当てはまる
“楽しみや興味、あるいは達成感などを、他人と分かち合おうという自発性に欠け……”
当てはまる
“相手の目つきから、社会的もしくは情緒的もしくはその両方のメッセージを読み取るのが困難……”
当てはまる

バーリはジェームズ・グレアムやウォーレン・バフェットと同じくファンダメンタルズを重視したバリュー投資家であり、企業の財務資料を読むのにはアスペルガー症候群であるがゆえの集中力の高さが利点となっていた。バフェットと違うのは人付き合いが苦手なことだが、これは個人が株式投資をする限りにおいては欠点にはならない。問題は凡人であるファンドの顧客たちがバーリの行動を理解しなかったことだ。

サブプライム・モーゲージ債の破綻を予測したのが一番早かったかどうかは分からないが、一番早く動いたのがバーリであったことは間違いないだろう。バーリはゴールドマン・サックスなどの投資銀行にモーゲージ債の保険となるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を販売するよう提案し、これを大量に購入する。モーゲージ債が破綻すれば、巨額の利益を手に入れることができる。

モーゲージ債にはムーディーズなどの格付け会社がトリプルAを付けていた。CDSの大量購入はそれに反しているばかりか、金融システムの崩壊に賭けることを意味する。もし、万が一、モーゲージ債が破綻するにしても、それまでは毎月保険料(プレミアム)を支払わなければならず、損失が続くことになる。実際、サイオン・キャピタルは損失を出し続けるようになり、顧客たちはバーリを公然と非難するようになる。

「わたしに最も近い共同出資者は、いずれ必ずわたしを憎むことになるような気がする。……この事業は、人生のかなり大事な部分を殺してしまう。問題は、殺されたのが何なのか、見きわめられないことだ。しかし、人生に欠かせない何かが、わたしの中で死んだ。わたしは、それを感じることができる」。

もちろん、サブプライム・モーゲージ債は破綻し、結果的にバーリは顧客に出資額の2倍以上の利益をもたらすが、顧客たちは礼の一つも言わなかった。バーリは金融市場にすっかり興味を失い、静かに退場していく。

著者のマイケル・ルイスはサブプライムローン問題の全体像を描きながら、周囲に理解されない孤独な天才投資家の姿を鮮やかに浮かび上がらせている。天才であるがゆえの孤独と苦悩。バーリの姿は悲劇的ではあるが、深い関心と共感を持たずにはいられない。バーリは2012年3月にフェイスブックに登録している(Burry)。ほとんど書き込みはしてない。SNSでの交流には興味を持てないのだろう。

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「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」

2013 年 4 月 7 日 日曜日

橘玲の本を5冊続けて読んだ。順番に(1)「不愉快なことには理由がある」(2)「日本人というリスク」(3)「「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計 」(4)「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」(5)「(日本人)」。(1)は単行本、(2)は文庫本、残り3冊は電子書籍で読んだ。電子書籍の方がすらすら読める気がするのは気のせいか。電子書籍の場合、外出先でもスマホで読めるので読み終えるのが早くなるメリットはあるなと思う。

面白かった順番で並べれば、(2)→(5)→(1)→(4)→(3)ということになる。(2)と(5)は東日本大震災を経た日本の社会と日本人についての考察という点で共通している。(1)は週刊誌の連載をまとめたもので、進化心理学について説明したプロローグが一番面白い。連載部分は文章が短いのでどうしても食い足りない思いが残るのだ。(4)は2004年の本だが、本質的なことは今も変わっていないだろう。(3)は取り扱い注意の本で、資産防衛マニュアルと言いながら、レバレッジを用いたFXや先物取引についても書いてある。こうした投機は資産を減らす(なくす)リスクが大きいことを注意して読んだ方がいい。以下、この本について書く。

まえがきの中で橘玲はアベノミクスによって次の3つのシナリオが想定されると書いている。

(A)楽観シナリオ アベノミクスが成功して高度経済成長がふたたび始まる
(B)悲観シナリオ 金融緩和は効果がなく、円高によるデフレ不況がこれからも続く
(C)破滅シナリオ 国債価格の暴落(金利の急騰)と高インフレで財政は破綻し、大規模な金融危機が起きて日本経済は大混乱に陥る

このうち、一番起こって欲しくないのは言うまでもなく破滅シナリオだが、日銀の新たな金融緩和策(ロイターは「黒田日銀のバズーカ砲炸裂」と書いた)によって国債価格の暴落は短期的には起きにくくなったとみていいだろう。何しろ、毎月7兆円の国債を日銀が買い入れるのだ。これは日銀が国債価格の下落を防ぐために買い支えるということだ。日経電子版だったか、「池の中のクジラ」と評していたが、これが続いている限りは国債価格が暴落する可能性は低く、ということは金利の高騰も予想しにくい。一方で通貨供給量を2倍に増やせば、金利が低いままインフレになる可能性が大きい。もちろん、日銀もそれを狙ってやったことなのだ。

国債価格の暴落を想定しているこの本は破滅シナリオの途中までは「普通預金が最強の資産運用法」と書いているが、前提が崩れた以上、普通預金最強説も崩れたことになる。金利が低いままインフレが起きれば、預金は目減りする。となれば、資産バブル一直線のように思えるが、何が起こるか分からない。5日の長期国債の先物市場がサーキットブレーカーを2回発動するという歴史的な乱高下をしたのは市場もこの緩和策をどう受け止めて良いか分からなかったからだろう。異次元の金融緩和策は異次元の事態を引き起こす可能性がある。従来の破滅シナリオは通用しなくなったが、別の破滅シナリオが起きることも考えられるのだ。

というわけで積極的にこの本を読む必要はなくなったという結論になる。気になったことを一つだけ書いておくと、これまで海外投資を勧めてきた橘玲は本書で「海外投資はしなくていい」と結論づけている。それは金融機関の利益を追求しただけの投資信託が多くなってきたからで、こういう商品を使っての海外投資はむしろ有害ということだろう。ただし、海外投資するなら、ネット銀行の外貨預金で十分と書いていることには大きな疑問がある。預金保険機構の対象にならず、銀行が倒れたら何も救済策がない外貨預金が国家破産の際に何のリスクヘッジになるのか。ヘッジになるどころかリスクを拡大するであろうことは投資初心者でも分かることだろう。

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