‘評論’ カテゴリーのアーカイブ

「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」

2013 年 4 月 7 日 日曜日

橘玲の本を5冊続けて読んだ。順番に(1)「不愉快なことには理由がある」(2)「日本人というリスク」(3)「「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計 」(4)「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」(5)「(日本人)」。(1)は単行本、(2)は文庫本、残り3冊は電子書籍で読んだ。電子書籍の方がすらすら読める気がするのは気のせいか。電子書籍の場合、外出先でもスマホで読めるので読み終えるのが早くなるメリットはあるなと思う。

面白かった順番で並べれば、(2)→(5)→(1)→(4)→(3)ということになる。(2)と(5)は東日本大震災を経た日本の社会と日本人についての考察という点で共通している。(1)は週刊誌の連載をまとめたもので、進化心理学について説明したプロローグが一番面白い。連載部分は文章が短いのでどうしても食い足りない思いが残るのだ。(4)は2004年の本だが、本質的なことは今も変わっていないだろう。(3)は取り扱い注意の本で、資産防衛マニュアルと言いながら、レバレッジを用いたFXや先物取引についても書いてある。こうした投機は資産を減らす(なくす)リスクが大きいことを注意して読んだ方がいい。以下、この本について書く。

まえがきの中で橘玲はアベノミクスによって次の3つのシナリオが想定されると書いている。

(A)楽観シナリオ アベノミクスが成功して高度経済成長がふたたび始まる
(B)悲観シナリオ 金融緩和は効果がなく、円高によるデフレ不況がこれからも続く
(C)破滅シナリオ 国債価格の暴落(金利の急騰)と高インフレで財政は破綻し、大規模な金融危機が起きて日本経済は大混乱に陥る

このうち、一番起こって欲しくないのは言うまでもなく破滅シナリオだが、日銀の新たな金融緩和策(ロイターは「黒田日銀のバズーカ砲炸裂」と書いた)によって国債価格の暴落は短期的には起きにくくなったとみていいだろう。何しろ、毎月7兆円の国債を日銀が買い入れるのだ。これは日銀が国債価格の下落を防ぐために買い支えるということだ。日経電子版だったか、「池の中のクジラ」と評していたが、これが続いている限りは国債価格が暴落する可能性は低く、ということは金利の高騰も予想しにくい。一方で通貨供給量を2倍に増やせば、金利が低いままインフレになる可能性が大きい。もちろん、日銀もそれを狙ってやったことなのだ。

国債価格の暴落を想定しているこの本は破滅シナリオの途中までは「普通預金が最強の資産運用法」と書いているが、前提が崩れた以上、普通預金最強説も崩れたことになる。金利が低いままインフレが起きれば、預金は目減りする。となれば、資産バブル一直線のように思えるが、何が起こるか分からない。5日の長期国債の先物市場がサーキットブレーカーを2回発動するという歴史的な乱高下をしたのは市場もこの緩和策をどう受け止めて良いか分からなかったからだろう。異次元の金融緩和策は異次元の事態を引き起こす可能性がある。従来の破滅シナリオは通用しなくなったが、別の破滅シナリオが起きることも考えられるのだ。

というわけで積極的にこの本を読む必要はなくなったという結論になる。気になったことを一つだけ書いておくと、これまで海外投資を勧めてきた橘玲は本書で「海外投資はしなくていい」と結論づけている。それは金融機関の利益を追求しただけの投資信託が多くなってきたからで、こういう商品を使っての海外投資はむしろ有害ということだろう。ただし、海外投資するなら、ネット銀行の外貨預金で十分と書いていることには大きな疑問がある。預金保険機構の対象にならず、銀行が倒れたら何も救済策がない外貨預金が国家破産の際に何のリスクヘッジになるのか。ヘッジになるどころかリスクを拡大するであろうことは投資初心者でも分かることだろう。

【amazon】日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル

「健康食」のウソ

2011 年 11 月 23 日 水曜日

「健康食」のウソ

「健康食」のウソ

 NHK「あさイチ」でDHA(ドコサヘキサエン酸)について「乳児期に摂取するとIQが向上したり、認知症の予防効果がある可能性」があると報じていた。「あさイチ」は出勤途中の車の中で毎日見ている番組で民放のワイドショーに比べれば、はるかにましな内容だと思う。「ためしてガッテン」で取り上げたテーマの焼き直しがよくあるのだが、これもその一つか?

『「健康食」のウソ』の著者・幕内秀夫はDHAを多く含む青魚を食べると頭が良くなるという通説に対して「脳を形成する一つの成分にすぎない物質(DHA)が、なぜ『頭の良さ』と結びつくのか理解に苦しみます。『頭をよくするためにを青魚食べろ』とは、『貧血の人はレバーを食べろ』と同様の大いなる錯覚です」と書く。著者がこの本で言っているのは一つの食品だけで頭が良くなったり、ダイエット効果があったり、健康になることはないというシンプルで当たり前のことだ。

朝バナナダイエットというアホなダイエット法が数年前に流行した。バナナは食物繊維を含むのでお通じが良くなって体重が減ることは考えられる。カロリーも少ないので、それまで食べていた朝食のカロリーを下回れば、痩せることもあるだろう。だが、ダイエットに効果的な成分が含まれているわけではない。このほか、血液をさらさらにする納豆、骨粗鬆症を防ぐ牛乳、腸をきれいにするヨーグルト、がん予防効果がある緑茶、脳の栄養になる砂糖、コレステロールを下げるオリーブ油などなどを著者は明確に否定し、「『一品健康法』のほとんどすべてが一部の成分だけを取りだして論じるワンパターン」と断じている。

驚くのは著者が「飲尿療法」まで試していることだ。どう考えても排泄物である尿を飲んで健康になるわけはないのだが、これも確かに話題になった。著者によれば、「過去二十数年間で最大の話題」という。著者は吐き気に襲われながら半年余り続けた。映画「127時間」で岩に手を挟まれ身動きできなくなった主人公が渇きに耐えかねて自分の尿を飲み、吐くシーンがあったが、あれと同じことを続けたわけだ。その結果、まったく効果はなかったという。困るのはこうした科学的根拠のない療法でも効果のある人がいること。著者はそれについて「プラセボ(偽薬)効果」としている。

ベストセラー「粗食のすすめ」の著者なので、この本で勧めているのもご飯に味噌汁、漬け物というシンプルな和食だ。そして食事だけでは健康にならないと強調する。「健康は生活全体の問題です。そのなかには当然、食事も含まれますが、食事だけで健康を語れるものではありません」。

200ページほどの新書なのでサラッと読めて、中身も堅くない。著者は管理栄養士、フーズ&ヘルス研究所代表。

【amazon】「健康食」のウソ (PHP新書)

「南沙織がいたころ」

2011 年 10 月 13 日 木曜日

「南沙織がいたころ」

「南沙織がいたころ」

 既にある資料をまとめることにも意味がある。すべての人がその資料を持っているわけではないのだから。著者の永井良和は関西大学社会学部教授。十代のころに南沙織のファンで、当時から集めてきた資料を基に南沙織のデビューから引退、現在までの歩みを振り返っている。ジャーナリストであれば、本人へのインタビューを試みるだろう。それがないのが少し物足りないが、遠くから見つめるファンの視点で南沙織を論じても悪くはない。前半を読んでいると、自分が南沙織のファンだったころのことが次々に思い出されてくる。かつての“サオリスト”にとって、記憶の喚起装置としての機能がこの本にはある。ただ、最終章の沖縄との関係を論じる部分は僕には余計に思えた。

南沙織はフィリピン人の父親と日本人の母親とのハーフと言われていたが、本当の父親は日本人なのだそうだ。フィリピン人の父親が本当の父親ではないということは著書「二十歳ばなれ」(1976年)にも書いてあった。しかし、そこで僕らが思ったのは本当の父親は別のフィリピン人だろうということで、本当の父親が日本人であることを南沙織自身が明らかにしたのは2008年のことだという。

南沙織が歌手として活動したのは1971年からの7年半。山口百恵とほぼ同じぐらいの期間だ。山口百恵が「時代と寝た」と評されたのに対して、南沙織は普通の少女(ordinary girl)であることにこだわった。デビューから1年後の引退宣言騒ぎも、上智大学国際学部に進学したのも、学校に通う普通の少女でいたかったためだ。テレビで見る南沙織を僕は「少し不器用な人」と感じていた。芸能界をすいすい泳ぐ人ではない感じがテレビからもうかがえたのだ。引退がキャンディーズや山口百恵のように派手な幕引きではなかったことも南沙織らしい。

コンサートに行ったのは1回だけ。レコードはLPを2枚とシングル盤数枚しか買っていない。熱烈なファンとは言えないかもしれないが、テレビや本書にも出てくる雑誌「明星」や「平凡」で南沙織の動向は常にウォッチしていた。レコードの売り上げで小柳ルミ子に負けようが、人気で天地真理に負けようが、そんなことはかまわなかった。自分が好きなアイドルが一番である必要はない。

南沙織の言葉で印象深く覚えているのは母親から言われたという結婚相手に関する助言。「ハンサムな人はダメよ」と言われたそうなのだ。「ジャガイモみたいな人がいい」。引退後に篠山紀信と結婚した時に僕はなるほどと思った。

【amazon】南沙織がいたころ (朝日新書)

「間違いだらけのエコカー選び」

2010 年 1 月 6 日 水曜日
「間違いだらけのエコカー選び」

「間違いだらけのエコカー選び」

徳大寺有恒の「間違いだらけのクルマ選び」シリーズは毎年買っていた。年2冊刊行になってからも毎回買い、その影響で自動車雑誌のNAVIも購読するようになった(NAVIが4月号で休刊になるのはとても残念だ)。今回の出版社は以前の草思社ではなく、海竜社。草思社が昨年、民事再生法の適用を申請したことも影響しているのだろう。

エコカーと言えば、プリウスやインサイトなどのハイブリッドカーが思い浮かぶが、著者の主張はハイブリッドだけがエコカーではないということ。フォルクスワーゲンなどヨーロッパの自動車会社がディーゼルを含めた内燃機関のクルマの燃費を向上させているのに比べて日本のメーカーが内燃機関をないがしろにしている現状を批判している。ガソリンの高騰で一気にハイブリッドへの注目が集まったけれど、内燃機関のクルマが姿を消すのはまだ10年以上先であるとの見方がその根底にある。

著者はハイブリッドカーの弱点としてコストと重量を挙げる。限界は「従来のガソリンエンジン車の効率の悪い領域を、あくまでカバーしているに過ぎない」こと。すべての車種にハイブリッドを適用するのは難しいし、ガソリンがなくては走らないハイブリッドはガソリンエンジン車に完全に置き換わるものでもないのだ。あくまでつなぎであり、エコカーの一つにすぎない。

本書の前半はそうした著者の主張で、後半は「厳選エコカー30台徹底批評」。以前の本と同じような構成である。興味を持ったのは最後の批評に出てくるテスラ・モデルS。これはカリフォルニアに本拠を置くベンチャー企業のテスラ社が発売を予定している電気自動車。航続距離が短いのが電気自動車の欠点だが、このモデルSは最高480キロ走れるという。これは三菱i-MiEVの3倍だ。

同じテスラ社のロードスターはは501キロの世界記録を持っているという。0-100キロ加速は4秒前後でスポーツカーとしても優れた能力を持つ。従来の電気自動車の弱点を克服したクルマらしい。なぜ、そんなことが可能なのかという点は本書には書かれていないが、そうした次世代のクルマが出て来たことは喜ぶべきなのだろう。

本書はあくまで総論的な書き方で、ちょっと詳しさが足りず、物足りない思いも残る。普段、自動車雑誌を読んでいる人には目新しい部分は少ないかも知れない。しかし、エコカーの現在をよく知るには格好のテキストだと思う。

【amazon】間違いだらけのエコカー選び

「Twitter社会論」

2009 年 11 月 20 日 金曜日
「Twitter社会論」

「Twitter社会論」

ネット通販でワンクリック購入のシステムがあるのは購入手続きの途中でユーザーが冷静になるのを防ぎ、購入意欲をなくさせないためという記述になるほどと思った。購入までに確認画面が何度もあると、やっぱり買わなくてもいいかと思い、買うのをやめた経験が僕にもある。逆にワンクリックで購入して早まったかと思った事も何度もある。「ネット通販は、購入までの確認画面を1つ挟むたびに購入率が落ちていく」のだそうだ。これはデル・コンピュータがTwitterで300万ドルの売り上げを達成したということに関連して言及されている。Twitterでつぶやきを読んでいる時にコンピュータ購入のお得な情報を見ると、ユーザーは購入意欲が高まるものらしい。

本書は140文字のつぶやきのシステムが社会にどんな影響を与えているかを初期からのTwitterユーザーの立場から考察した本だ。スタートから発展、さまざまな使い方、企業・団体の利用などのTwitterに関する事象をコンパクトにまとめた好著。Twitterの全貌を知るのに役立つ本だと思う。

「いまなにしてる?」という問いに対して答えることに何の意味があるのか。Twitterを始めるまでは何の意味もないと思っていたし、今も「おはようございます」だの「おやすみなさい」だの「○○○なう」などというつぶやきはその人の知り合い以外には何の意味もないと思う。

しかし、著者の津田大介が指摘しているようにTwitterの最も強力な機能はそのリアルタイム性にある。今起きていること、自分が目撃していること、体験していることをどこからでも即座に投稿できる。これが事件・事故やイベントの実況に威力を発揮するのだ。Twitterの最も有効な機能はこれに尽きると思う。もちろん、ブログだってどこからでも投稿できるが、たった一言のブログなんてブログの意味をなさない。140文字のブログなんて読みたくないし、つぶやきを掲載するシステムとしてはブログは大げさすぎるのだ。Twitterは元々そういう簡易なものだから許される。

このほか著者が挙げているTwitterの特徴は(1)RT(リツイート)による強力な伝播力(2)オープン性(3)ゆるい空気感(4)属人性-の4つ。あとの3つは付け足しみたいなものだろう。Twitterの開発者が当初からリアルタイム性を考慮していたかどうかは分からないが、Twitterの魅力がリアルタイム性と伝播力にあることは間違いないだろう。イベントの実況は著者が本格的に始めたので「tsudaる」と言われる。あるシステムをどう使うかを見つけていくのはユーザーであり、そうしたいろいろな使い方ができる緩やかなシステムであることがTwitterの普及に役立っている側面は否定できないだろう。

Twitterの問いかけは11月20日から「いまどうしてる?」に変わった。英語版では「What’s happening?」なのだから、「いま何が起きてる?」と訳しても良かったし、その方がリアルタイム性を表しているのではないかと思う。まあ、大多数を占める個人のつぶやきで「何が起きてる?」という訳は合わないのかもしれない。

【amazon】Twitter社会論 ~新たなリアルタイム・ウェブの潮流 (新書y)