「ある日どこかで」

1980年製作の同名映画の原作(リチャード・マシスン)。昨年3月に創元推理文庫から出た邦訳をようやく読む。映画は公開時に東京では2週間足らずで打ち切られたが、地方では「ザナドゥ」の併映として延々と上映された。で、「ザナドゥ」よりもこちらに感激した人が多かったのだった。

劇作家のリチャード・コリアは泊まったホテルで過去の女優エリーズ・マッケナの写真を見て、一目惚れしてしまう。本人に会いたい気持ちが募り、リチャードは過去へ遡る方法を見つけようとする。当時の洋服に着替え、当時のお金を用意し、ホテルの部屋で自分に暗示をかけることでリチャードは時間旅行に成功する。1896年の海岸で、エリーズが初めてリチャードにかけた言葉は映画通りである。

やがて、予想もしていなかった言葉を彼女が不意に言ったので、その声に唖然とさせられた。「あなたなの?」とエリーズが訊いたのだ。

これに対して、リチャードは「そうです、エリーズ」と答える。

原作はほぼ映画に忠実で(という書き方はおかしいが)、映画のさまざまな場面をリフレインしながら読んだ。映画の脚本はマシスン自身が書いているからこれは当然のことだろう。

映画を見ていると、小説を読んでも映画で受けたような感激は味わえないが、この物語を愛する人は持っておいて損はしないだろう。作家の瀬名秀明は解説(これは大変詳しく、読みごたえがある。エリーズのモデルになった女優モード・アダムスについても詳述してある)にこう書いている。

きっとあなたもこの物語を生涯大切にしたくなるだろう。これは奇蹟の作品である。

言わずもがなのことを付け加えておくと、リチャードが試みる時間旅行の方法はジャック・フィニィが考案したものと同じである。だから映画にはフィニィの役も登場する。

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