「機龍警察 自爆条項」

1作目はパトレイバーの設定を借りた警察小説という趣だったが、今回は冒険小説のテイストを取り入れている。それもそのはず、作者の月村了衛はジャック・ヒギンズやアリステア・マクリーンの小説が好きなのだという。今回メインとなるのはライザ・ラードナー。元IRFのテロリストで現在は警視庁特捜部に雇われた突入班の傭兵。機龍兵(ドラグーン)のパイロットで警部の肩書きを持っている。現在の事件と併せてそのライザの過去が描かれる。これがもうジャック・ヒギンズの世界だ。

軽いジャブのような1作目から作者は大きく進化している。このタイトル、設定だと、ミステリファンは手に取りにくいが、少なくとも冒険小説ファンなら満足するだろう。虚無的なライザの魅力が光る。「このミス」9位で、「SFが読みたい」では11位。これはSFではないから仕方がない。作者の本領は冒険小説にある。

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「新潟のおせんべい屋さんが東京の女子中学生にヒット商品づくりを頼んだらとんでもないことが起こった!?」

タイトル負けしている。「とんでもないこと」と言うからどんなことかと思ったら、「なんてことはないこと」だった。と、思えるのは単純に編著者の力が足りないからで、内容を読者に「とんでもないこと」と納得させるような書き方が必要だ。

業界3位の米菓メーカー岩塚製菓(新潟県長岡市)が東京の品川女子学院とコラボし、新商品を開発する過程が描かれる。女子中学生の自由な発想に接して、社員たちは会社の都合に流されていた自分たちを反省することになる。

「女子中学生のコラボ日記」と「おせんべい屋さんの本音トーク」、CMプランナー澤本嘉光によるツッコミで構成されている。どれも本人が書いたものではなく、編集者が取材してまとめたものだろう。それは別にかまわないのだが、編著者が岩塚製菓の社員からなるROCKGIRLSなので、どうも書き方に遠慮があるような感じが抜けきれない。本書では省略された細部にもっと重要なものがあるのではないかと思えてくるのである。よくまとまった経過報告の域を出ていないのだ。第三者が書いたら、もっと面白くなったのかもしれない。題材が良いだけに惜しい。

心を動かされたのは冒頭にある岩塚製菓社長の品川女子学院校長への手紙と、岩塚製菓の成り立ち。同社が設立された長岡市近郊の雪深い山村は冬になると、現金収入のため父親が出稼ぎに行き、一家が離ればなれになる生活だった。「何とか、地元に産業を興し、家族が一緒に暮らせるようにしようと」して1947年に創業したのだという。「日本でいちばん大切にしたい会社」に取り上げてはどうだろう。

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「ウォーレン・バフェット 成功の名語録」

言うまでもなくバフェットはアメリカ最大(世界ナンバーワン)の投資家であり、慈善活動家でもある。そのバフェットの言葉を集めた本。270ページの本だが、ページの片方にバフェットの言葉を大書してあり、対向ページにその解説がある。解説の中にも同じ言葉は引用されているので、この本、半分のページ数でもすんだのではないか。

バフェットの投資関係の言葉で有名なのは「ルール その1:絶対に損をしないこと。ルール その2:絶対にルール1を忘れないこと」だが、それはこの本にはない。本書の中で心に残った言葉を挙げれば、
「幸運な1パーセントとして生まれた人間には、残りの99パーセントの人間のことを考える義務があります」
たいていの「幸運な1パーセント」は99パーセントのことをほとんど考えていないだろう。数兆円の資産を築きながら、子どもには50万ドルしか残さないというのは徹底していると思う。チャールズ・エリス「敗者のゲーム」でも社会貢献の重要さに言及してあったが、すべての資産家はこうありたいところだ。

サラッと読める本なので、バフェットの人となりを手短に知るにはいいかもしれない。ただし、バフェットの言葉通りに投資を実行しても、バフェットのように資産を増やせるわけではない。バフェットは時代と運に恵まれた人、というのが通説だ。

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「しぶとい分散投資術」

1929年の世界恐慌でも分散投資をしていれば、3年9カ月で収益がプラスに転じたという長期分散投資のメリットを説く。長期分散投資に関して一通りの知識はあるので、新たに学べたことはあまりなかったが、外貨投資に関して参考になることが多かった。「高金利通貨は必ず下落して、それまでの利息収入が吹き飛ぶ」という指摘とその理由には納得。FXや株の短期トレードではなく、長期のコツコツ投資を目指す人は買って損のない良書だと思う。

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「粘膜蜥蜴」

遅ればせながら、飴村行の粘膜シリーズにはまった。4作すべて読んだが、ベストはこれ。第弐章「蜥蜴地獄」の秘境冒険SFの部分がたまらない。ページをめくる手が止まらない面白さだ。肉食ミミズだの、巨大なゴキブリだのが攻撃してくる東南アジア・ナムールのジャングルの描写は貴志祐介「新世界より」の奇怪な生物たちがかわいく見えてくるほど。

日本推理作家協会賞受賞作なので、ミステリの部分も申し分ない。グチャグチャグッチョンの描写があるのに、ラストには切なさが横溢しており、この小説の余韻を深いものにしている。傑作としか言いようがない。

粘膜シリーズには河童や爬虫人ヘルビノなどが登場してくる。だから粘膜なのかと思ったが、作者インタビュー(http://bookjapan.jp/interview/090114/note090114.html)によれば、「粘膜というと卑猥なイメージがあるでしょう。グロテスクで、さらに卑猥というイメージ。河童が代表例なんですけど、この小説の登場人物はみんなそういう、グロテスクでどこか卑猥という印象があると思います。だから、登場人物をすべて象徴する言葉として粘膜を当ててみたわけなんです」ということなのだそうだ。

これ、映画化かアニメ化ができないものかと思う。そのまま映像化すると、R-18は避けられないだろうが、監督は三池崇史が適任なのではないかと思う。

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