「きみに読む物語」

映画を見たとき、原作は薄っぺらな話ではないのかと思ったが、予想は当たった。帯にあるのは「全米450万部 奇跡の恋愛小説」という言葉。ほんとにこんな簡単な小説が450万部も売れるとは奇跡以外のなにものでもない。250ページほどの短い小説で、最初の40ぺージ余りがノアとアリーの若いころの話、続いて再会した2日間が130ページほど、最後の年老いてからの話が70ページ余りである。これを読むと、映画の脚本はかなりうまく脚色しているなと思う。小説よりも映画の方が優れている数少ない例と言える。

若い頃の話などは、小説ではほとんどプロットそのままと言ってもいいぐらいの描写だが、映画はここに重点をおいてじっくり描いていた。原作にないエピソードも入れており、描写が細かい。そうしないと、再会後の2人の気持ちの高まりに説得力がないのである。原作にはアリーの母親が若い頃の恋を話すエピソードもない。

アメリカのベストセラーは分厚くて詳細な描写があるのが普通だが、この小説、描写に関しては本当に薄いし、構成も簡単だ。ただ、よく分かったのはアリーがロンをどう思っているのかという部分。ロンはただの仕事人間であり、アリーとの出会いも映画とは異なる。原作ではこう書かれている。

あとでアリーは、ロンと最後に話をしたときのことを思い出そうとした。ロンはじっくり聴いてくれたが、言葉のやりとりはあまりなかった。彼は会話を楽しむタイプではなく、アリーの父のように、考えや感情を人とわかちあうのが苦手だった。彼にもっと近づきたいと説明しても、手ごたえのある返事はなかった。

こういう部分をもっと強調してくれれば、映画に対する印象も変わったと思う。原作者のニコラス・スパークスは「メッセージ・イン・ア・ボトル」の作家で、これがデビュー作とのこと。続編が出たそうだが、もう読むことはないだろう。