投稿者「hiro」のアーカイブ

「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」

橘玲の本を5冊続けて読んだ。順番に(1)「不愉快なことには理由がある」(2)「日本人というリスク」(3)「「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計 」(4)「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」(5)「(日本人)」。(1)は単行本、(2)は文庫本、残り3冊は電子書籍で読んだ。電子書籍の方がすらすら読める気がするのは気のせいか。電子書籍の場合、外出先でもスマホで読めるので読み終えるのが早くなるメリットはあるなと思う。

面白かった順番で並べれば、(2)→(5)→(1)→(4)→(3)ということになる。(2)と(5)は東日本大震災を経た日本の社会と日本人についての考察という点で共通している。(1)は週刊誌の連載をまとめたもので、進化心理学について説明したプロローグが一番面白い。連載部分は文章が短いのでどうしても食い足りない思いが残るのだ。(4)は2004年の本だが、本質的なことは今も変わっていないだろう。(3)は取り扱い注意の本で、資産防衛マニュアルと言いながら、レバレッジを用いたFXや先物取引についても書いてある。こうした投機は資産を減らす(なくす)リスクが大きいことを注意して読んだ方がいい。以下、この本について書く。

まえがきの中で橘玲はアベノミクスによって次の3つのシナリオが想定されると書いている。

(A)楽観シナリオ アベノミクスが成功して高度経済成長がふたたび始まる
(B)悲観シナリオ 金融緩和は効果がなく、円高によるデフレ不況がこれからも続く
(C)破滅シナリオ 国債価格の暴落(金利の急騰)と高インフレで財政は破綻し、大規模な金融危機が起きて日本経済は大混乱に陥る

このうち、一番起こって欲しくないのは言うまでもなく破滅シナリオだが、日銀の新たな金融緩和策(ロイターは「黒田日銀のバズーカ砲炸裂」と書いた)によって国債価格の暴落は短期的には起きにくくなったとみていいだろう。何しろ、毎月7兆円の国債を日銀が買い入れるのだ。これは日銀が国債価格の下落を防ぐために買い支えるということだ。日経電子版だったか、「池の中のクジラ」と評していたが、これが続いている限りは国債価格が暴落する可能性は低く、ということは金利の高騰も予想しにくい。一方で通貨供給量を2倍に増やせば、金利が低いままインフレになる可能性が大きい。もちろん、日銀もそれを狙ってやったことなのだ。

国債価格の暴落を想定しているこの本は破滅シナリオの途中までは「普通預金が最強の資産運用法」と書いているが、前提が崩れた以上、普通預金最強説も崩れたことになる。金利が低いままインフレが起きれば、預金は目減りする。となれば、資産バブル一直線のように思えるが、何が起こるか分からない。5日の長期国債の先物市場がサーキットブレーカーを2回発動するという歴史的な乱高下をしたのは市場もこの緩和策をどう受け止めて良いか分からなかったからだろう。異次元の金融緩和策は異次元の事態を引き起こす可能性がある。従来の破滅シナリオは通用しなくなったが、別の破滅シナリオが起きることも考えられるのだ。

というわけで積極的にこの本を読む必要はなくなったという結論になる。気になったことを一つだけ書いておくと、これまで海外投資を勧めてきた橘玲は本書で「海外投資はしなくていい」と結論づけている。それは金融機関の利益を追求しただけの投資信託が多くなってきたからで、こういう商品を使っての海外投資はむしろ有害ということだろう。ただし、海外投資するなら、ネット銀行の外貨預金で十分と書いていることには大きな疑問がある。預金保険機構の対象にならず、銀行が倒れたら何も救済策がない外貨預金が国家破産の際に何のリスクヘッジになるのか。ヘッジになるどころかリスクを拡大するであろうことは投資初心者でも分かることだろう。

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「臆病者のための株入門」

2006年に出た新書だが、円安株高に伴う最近の投資ブーム(?)に乗って書店では平積みになっていた。株で一儲けしようと思う人を対象に増刷したのだろう。しかし、この本には株取引のテクニック的なことは書いてない。だいたい、株の必勝法なんてない。現物取引に限れば、安く買って高く売るしかないのだ。

本書は最初の3章がジェイコム男、ホリエモン、デイトレーダーの話で、著者の体験や主観も入っているから、この部分、とても面白い。後半は株式投資がどういうものかを説明した上で、経済学的にもっとも正しい投資法が紹介される。それは「世界市場のインデックスファンドに投資しなさい」である。株入門という名前の本なのに、インデックス投資がベストと言っているわけだ。株取引で成功し続けるのはほんの一握りであり、多くの人は勝ったり負けたりを繰り返すことになる。これを踏まえてどの銘柄を買うかではなく、市場全体に投資するのがベストという当然の結論に至る本なのである。毎月分配型の投信がなぜダメかということにも言及してある。だから、これは株入門の本ではなく、すこぶる面白く読める投資入門の本になっている。

著者の橘玲は世界市場に投資するポートフォリオとして15%を日本株、残り全部を外国株にすることを勧める。2006年当時の株価時価総額の比率はそうなっていたのだろう。現在はどうなっているのか。こういう場合、インデックス投資支援サイトの「わたしのインデックス」がとても役に立つ。世界各国のPER・PBR・時価総額のページによると、今年2月末時点で日本株の時価総額は世界の株式市場の7.2%しかない。昨年11月から株価が上がったといっても、まだこれぐらいのものなのである。世界市場に投資するポートフォリオのアセットアロケーション(資産配分)はこれを参考にできるだろう。

複数の投資信託でポートフォリオを組むのが面倒な場合はバランス型投信に投資する選択もある。資産総額が600億円を超えたセゾン投信のセゾン・バンガード・グローバルバランスファンドなどがそうだ。ただ、このファンドの日本株の割合は4%しかない。これはもう少し増やしてもいいのではないかと思う。

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「クルマは家電量販店で買え!」

吉本佳生「スタバではグランデを買え!」の続編。5年前に出た本で最近、ちくま文庫に入った。サブタイトルは「価格と生活の経済学」。吉本佳生は金融学が専門で、デリバティブ(金融派生商品)を組み込んだ仕組み債などが個人に売られている現状を強く批判している人だが、このシリーズは庶民の生活に身近な商品の価格が決まる仕組みを解説している。

個人的に身にしみるのはこちらの家計に直結する大学の授業料に関する第5章。世帯収入が増えない中でも、授業料は大幅に上がっており、私立大は国立大の2倍も高い。高いだけならいいが(いや、良くないが)、私立大の場合、早稲田や慶応など一部のブランド大学を除けば、就職に有利にならないらしい。就職の際に考慮されるのは大学名だけで、それでは高校までの成績しか見ないということになる。これは昔からそうだが、今は正社員と非正規社員の分かれ道になる可能性があるから問題は大きい。

私立大の場合、卒業後に国立大生と同じ会社に就職しても、2倍のコストをかけていることになる。私立大が授業料を下げないのは国立大との差が離れすぎているからで、こういう場合、少しぐらい授業料を下げても優秀な学生を集める効果はなく、収入を減らすだけで終わる。吉本佳生はこの現状を改めるために、国立大の授業料を私立大並みに引き上げることを提案している。授業料も就職率も同じぐらいのレベルなら、そこには価格競争の原理が働き、私立大が授業料を下げる可能性があるからだ。価格競争を持ち込むという考えには意外性があるが、競争はすぐには起きないだろう。経済的に大学に行けない学生が増えるデメリットがあるし、私立大が下げても財政難の政府がいったん引き上げた国立大の授業料を下げるかどうか疑問がある。つまり価格競争を持ち込めても、私立大と国立大の授業料の高低が逆転するだけで、現状より悪くなる恐れがあるのではないかと思う。

正社員と非正規社員の生涯年収の差は1億6000万円ほどになるとの試算がある。いったん非正規になると、なかなかそこから抜け出せない。大学の授業料も含めて、こうした問題を解決するには景気を良くして世帯収入を引き上げるしかないだろう。アベノミクスは今のところ、円安株高の効果が中心だが、一部企業が実施を表明したベースアップが他の企業に波及していかないことには根本的な問題の解決は難しいようだ。

考えてみると、就職先の選択というのは株の個別銘柄の選択に似ている。株の場合は自分のお金を投資し、就職の場合は自分の人的資本を投資してリターンを得る。その割には大学生が選ぶ人気企業ランキングなどを見ると、東証一部上場の企業ばかりが並んでいる。一部上場企業の場合、安定はしていても今後の成長に関してはあまり伸びしろのない場合が多いだろう。家電メーカーのようにリストラに遭う可能性もある。株と同じで就職も東証二部やマザーズ、あるいは上場していない企業の選択もあるなと思う。ただ、こちらが選択してもあちらから選択されないことには始まらないので、とりあえず、選択権を持つためにはそれなりの大学に入っておいた方が良さそうだ。

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「儲かる会社、つぶれる会社の法則」

「日経平均を捨てて、この日本株を買いなさい。」を読んだ際、投資の本では珍しい熱さを持ってる本だなと思った。著者の藤野英人はレオス・キャピタルワークスのCIO(最高投資責任者)。熱さに惹かれて、ちょうどSBI証券が取り扱いを始めた日本株のアクティブ投資信託「ひふみプラス」の積み立てを始めた。本のPR効果というのはなかなかのものがあるのだ。

「投資家が『お金』よりも大切にしていること」にも、一見普通のビジネス書のように見えるこの本にも根底に熱い部分がある。法則4に「夢を熱く語れる」社長の会社は投資に値する、というのがある。藤野英人の会社の評価基準も社長に熱さがあるかどうかがポイントになっているわけだ。そして、この本の熱さが僕にはとても好ましく思える。

あとがきには投資家として生きるための条件として「未来を信じること」「成長を望むこと」「努力すること」「仲間を信じること」「理想と現実の間を生きること」などが挙げてある。これは投資家としてだけでなく、企業の経営者にも普通の会社員にも当てはめられることばかりだ。どんな経営者も創業時には夢と希望に燃えているだろう。それが会社が大きくなるにつれて、現実路線に向かい、創業時の気持ちを失いがちだ。それを失わない経営者の会社が伸びる会社なのだろうと思うし、藤野英人もそう考えているのではないかと思う。

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「兄 かぞくのくに」

映画「かぞくのくに」の基になったヤン・ヨンヒ監督のノンフィクション「兄 かぞくのくに」を読んだ。帰国事業で北朝鮮に行った3人に兄について書き、激しく胸を揺さぶられる。ほとんどの国民は信じていない幻想の上に成り立ち、人を幸せにしない北朝鮮への批判も強いが、それ以上にこれは家族の物語だ。

「この本の唯一の欠点は外で読めないこと。泣いてしまうから」とライブトークの中で映画のプロデューサーが言っている。ホントにその通り。思わず嗚咽を漏らしてしまう場面がたくさんある。しかし、その一方で家族の温かさとそこから生まれるユーモアがある。泣き笑いというと通俗的に聞こえるが、痛切な悲しみの合間に日常のほのかなユーモアがあるのだ。

映画が描いたのは3人の兄のうちの1人。この部分よりも二番目の兄コナの家族を描いた第2部がとても良かった。コナ兄は美人のMさんと結婚し、2人の子供をもうけるが、Mさんは出て行ってしまう。兄の息子である10歳のチソンが、電話をかけてきた母親に「幸せの邪魔をするな!」「二度と、お母さんと名乗るな!」と拒絶する場面には胸を打たれた。

ヤン・ヨンヒはライブトークを見ると、かなり饒舌な人だ。40分のライブトークのうち、30分以上は1人で話してる。たくましいオモニの血を受け継いでいるのだろう。「理想の国の象徴である平壌に障害者は住むことを許されない」という発言は驚きだ。障害を持つ人は地方に追いやられるのだそうだ。

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