「ブックレシピ61」とサブタイトルがついた小林信彦の“究極のブックガイド”(文春文庫)。「本の雑誌」と週刊文春の連載をまとめたものだが、小説だ けでなく、映画も多数取り上げられており、一気に読まされる。いつものように的確かつ明快な批評が満載され、読んでいて気持ちがいい。
例えば、映画「氷の微笑」を取り上げた「<犯人が分からない>批評家たち」と題する章は、公開当時によく言われた犯人が分からないという紹介の仕方を取 り上げ、「なにしろ、容疑者は女3人しかいなくて、2人が殺されてしまうのだから、ラストで出てくる女が犯人に決まっている。しかも、凶器までうつして、 念押ししているのに、<犯人が分からない>とはどういうことか?…鑑賞力(というほどのものではない、この場合)の低下、衰退もきわまったのではないか」 と憤慨している。その後、続けて「まあ、映画や映画ジャーナリズムの場合、もう手がつけられないほど、ひどいことになっているから、怒っても仕方がない」 との結論になる。もっともな指摘である。
もっとも僕自身、「シネマ1987」に書いた当時の映画評を読み返してみると、「こういうあいまいな決着の付け方は嫌いである」なんて書いているのだから、あまり人のことは言えませんけどね(~_~;)。
小林信彦は小説家である前に超一流の批評家であり、僕は批評の在り方にかなり影響を受けている。ただし足下にも及ばない。読書・映画体験のケタが違う し、批評の眼というのはその人の育った環境や持って生まれた資質に左右される面が大きいのである。ああいう明快、的確な批評を書くのは僕には無理でしょう ねえ。
「読書中毒」に刺激を受けたので、同じ著者の「おかしな男 渥美清」を続けて読み始めた。こちらは「天才伝説 横山やすし」と同様、著者と渥美清との交流を基本とした“実感的喜劇人伝”(オビの言葉)。ここにも鋭い批評の眼が随所にあり、読み応えがある。