「ぼっけえ、きょうてえ」

体調不良で今日は1日寝ていた。で、岩井志麻子の「ぼっけえ、きょうてえ」の残りの3編を読む。小さな村でコレラが蔓延する「密告函」などは今の状況にぴったりと思いつつ読んだが、興味を惹かれたのは最後の「依って件の如し」。件は、くだんと読む。「半人半牛の姿をした怪物」のことである。

Wikipediaによれば、件は「歴史に残る大凶事の前兆として生まれ、数々の予言をし、凶事が終われば死ぬ」などの説がある。件を初めて知ったのは小学生のころ。石ノ森章太郎(当時は石森章太郎)の漫画「くだんのはは」でだった(調べてみたら、掲載誌は1970年の別冊少年マガジン)。

これは後に小松左京の原作も読んだ。ぼんやりと記憶があるのはNHKがテレビドラマにもしていたんじゃないかということ。1970年代に小松左京のSFは土曜ドラマの枠でいくつかドラマ化された。この他に覚えているのは「終わりなき負債」とか。たぶん、SFファンのディレクターがいたのだろう。

小松左京原作の件は頭が牛で体が人間の女性。もう内容はあまり覚えていないが、第2次大戦中に凶事を予言するような話だったと思う。石ノ森章太郎の漫画は長らく単行本未収録だったが、「歯車 石ノ森章太郎プレミアムコレクション」(単行本未収録と絶版作品を集めた本)に入っているそうだ。この本には「マタンゴ」も入っているそうなので、amazonに注文。これだけだと、送料がかかるので「バトルスター・ギャラクティカ サイロンの攻撃」(2004年発売の新シリーズのDVD)も一緒に頼んだ。

岩井志麻子版の件は怪物というよりも主人公の目に怪物に映る姿を表している。というか、他の3編にもはっきりとした妖怪・怪物のたぐいは出てこない。「ぼっけえ、きょうてえ」にしても合理的に説明が付く話ではないか。

岩井志麻子の小説はホラーではないと思う。描かれているのは貧しい小さな村に住む人間たちの業や心の闇、土俗的な風習であり、そこから怪異のような現象が立ち上がってくる。しかし、これはあくまで主人公の目を通して見た怪異に過ぎないように思える。“とても怖い”のは怪異現象ではなく、人間の方なのだ。