月別アーカイブ: 2013年5月

『今こそ「お金の教養」を身につけなさい』

サブタイトルは「稼ぎ、貯め、殖やす人の”37のルール” 」。お金に対する考え方の参考になればと思って読んだが、反面教師にしかならなかった。所々、引っかかりながら読み進んだら、第4章にこんなことが書いてあってあきれた。

そもそも、貧乏な人と付き合ったら、自分も貧乏になります。貧乏な人はそれなりの生活習慣を送っています。一緒にいると、その習慣が似てくるのです。

著者はお金を3倍増やす方法として良い人脈を作ることを勧める。いい人脈と情報は貯蓄や投資のチャンスを生むそうだ。それはそうかもしれないが、金持ちとだけ付き合って貧乏人と付き合うなという考え方は人間的にどうかと思う。人間関係を損得勘定だけで判断するのは器が余りにも小さすぎる。

著者の菅下清廣は会社代表で経済評論家、国際金融コンサルタント。裕福な家に生まれ、父親の事業失敗で一転して貧乏を経験した。貧乏から抜け出すために猛勉強したそうだが、成り上がる過程で著者と付き合ってくれた金持ちはいなかったのだろうか。

この考え方を著者に教えたのは研修でニューヨークへ行った際に教育係を務めた男(ポール・ニューマンに似ているのでポールと呼ぶ)。ポールはレストランの食器に自分の名前が刻まれているのを見せて、こう言う。「ミスター・スガシタ、君がウォール街で成功して大金持ちになるために、最も重要な要素は、グッド・ピープルだ」。悪い影響を受けたとしか思えないが、著者はそれ以来、海外旅行に行く際にファーストクラスや一流ホテルを使うようになった。

一度そのなかに身を置くと、彼ら・彼女らに近づこうという気持ちが嫌でも湧きます。
「ファーストクラスの顧客にふさわしい自分になろう」
と思うのです。そのために、私は一流の場にお金を投じることを勧めるのです。

ファーストクラスの乗客に著者のような考え方の持ち主が多かったら、効果はないだろう。

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「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」

「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」

「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」

恐竜が鳥類の先祖という説が一般に広まったのはマイクル・クライトン「ジュラシック・パーク」(1990年)が出版された時だろう。それは単なる一説だろうと当時は思ったが、本書の序文によると、今では「鳥類が恐竜から進化してきたことを疑うことは容易ではない」ということになっているそうだ。

鳥類学者の立場から恐竜をプロファイリングした本。恐竜の種類や生態、鳥類との共通点、白亜紀の絶滅(鳥類が子孫であるなら絶滅はしていない)に至るまでを語り、最後まで楽しく読める。その大きな要因は著者が至るところにユーモアを織り込んでいるからだ。それは本文中だけでなく。脚注にもある。例えば、著者は「鳥類が恐竜から進化したと考える以上、羽毛恐竜の発見は想定内だった」と書いた上で、脚注にこう書く。

かくいう筆者は先ほどまで使っていたはさみを見失い、潤滑剤の雄、KURE5-65をあったはずと思いつつも発見できずに4本も買い直すような人間である。そんな私が、この発見を想定内とするのは確かにおこがましい。心から謝りたい。

あるいは以下のような部分。

鳥の最大の特徴は、空を飛ぶことだ。飛べない鳥もいるじゃないか、なんて指摘は盛り下がるばかりなので、問答無用で門前払いである。

著者のプロフィルに生年が書いてないので年齢は分からないのだが、森林総合研究所の主任研究員という肩書きとReaD&Researchmapにある写真から見て30代だろうか。その割にはギャグがいちいち、こちらの好みに合っている。同じ年代かと思うほど。

もっとも著者はそうしたユーモアに関することばかり褒められてもあまり嬉しくないかもしれない。付け加えておくと、というかこっちが本筋だが、この本は恐竜に関して少しは知識があると思っていたこちらの考えを見事に打ち砕いてくれた。プテラノドンなどの翼竜や首長竜は系統的には鳥類や恐竜とはまったく異なるものなのだそうだ。おまけにその翼竜が四足歩行もしていたなんてまったく知らなかった。翼竜が空を飛ぶための皮膜より鳥類の羽毛がいかに優れているかも本書は詳しく教えてくれる。羽毛恐竜に関する調査研究はこの10年でかなり進んだそうだ。本書は最新の研究を踏まえた恐竜の全体像をつかむのに格好のテキストだと思う。

20代のころ、アイザック・アシモフの科学エッセイが好きでよく読んでいた。楽しく読みながら知識を深めさせてくれる本で、アシモフは当時、この種の読み物の第一人者だったと思う。この本はアシモフの科学エッセイに共通するものがある。著者は恐竜や鳥類に関するエッセイをもっと書くべきだと思う。どこかで連載してはどうだろう。

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