「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」

「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」

「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」

恐竜が鳥類の先祖という説が一般に広まったのはマイクル・クライトン「ジュラシック・パーク」(1990年)が出版された時だろう。それは単なる一説だろうと当時は思ったが、本書の序文によると、今では「鳥類が恐竜から進化してきたことを疑うことは容易ではない」ということになっているそうだ。

鳥類学者の立場から恐竜をプロファイリングした本。恐竜の種類や生態、鳥類との共通点、白亜紀の絶滅(鳥類が子孫であるなら絶滅はしていない)に至るまでを語り、最後まで楽しく読める。その大きな要因は著者が至るところにユーモアを織り込んでいるからだ。それは本文中だけでなく。脚注にもある。例えば、著者は「鳥類が恐竜から進化したと考える以上、羽毛恐竜の発見は想定内だった」と書いた上で、脚注にこう書く。

かくいう筆者は先ほどまで使っていたはさみを見失い、潤滑剤の雄、KURE5-65をあったはずと思いつつも発見できずに4本も買い直すような人間である。そんな私が、この発見を想定内とするのは確かにおこがましい。心から謝りたい。

あるいは以下のような部分。

鳥の最大の特徴は、空を飛ぶことだ。飛べない鳥もいるじゃないか、なんて指摘は盛り下がるばかりなので、問答無用で門前払いである。

著者のプロフィルに生年が書いてないので年齢は分からないのだが、森林総合研究所の主任研究員という肩書きとReaD&Researchmapにある写真から見て30代だろうか。その割にはギャグがいちいち、こちらの好みに合っている。同じ年代かと思うほど。

もっとも著者はそうしたユーモアに関することばかり褒められてもあまり嬉しくないかもしれない。付け加えておくと、というかこっちが本筋だが、この本は恐竜に関して少しは知識があると思っていたこちらの考えを見事に打ち砕いてくれた。プテラノドンなどの翼竜や首長竜は系統的には鳥類や恐竜とはまったく異なるものなのだそうだ。おまけにその翼竜が四足歩行もしていたなんてまったく知らなかった。翼竜が空を飛ぶための皮膜より鳥類の羽毛がいかに優れているかも本書は詳しく教えてくれる。羽毛恐竜に関する調査研究はこの10年でかなり進んだそうだ。本書は最新の研究を踏まえた恐竜の全体像をつかむのに格好のテキストだと思う。

20代のころ、アイザック・アシモフの科学エッセイが好きでよく読んでいた。楽しく読みながら知識を深めさせてくれる本で、アシモフは当時、この種の読み物の第一人者だったと思う。この本はアシモフの科学エッセイに共通するものがある。著者は恐竜や鳥類に関するエッセイをもっと書くべきだと思う。どこかで連載してはどうだろう。

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