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「健康食」のウソ

「健康食」のウソ

「健康食」のウソ

 NHK「あさイチ」でDHA(ドコサヘキサエン酸)について「乳児期に摂取するとIQが向上したり、認知症の予防効果がある可能性」があると報じていた。「あさイチ」は出勤途中の車の中で毎日見ている番組で民放のワイドショーに比べれば、はるかにましな内容だと思う。「ためしてガッテン」で取り上げたテーマの焼き直しがよくあるのだが、これもその一つか?

『「健康食」のウソ』の著者・幕内秀夫はDHAを多く含む青魚を食べると頭が良くなるという通説に対して「脳を形成する一つの成分にすぎない物質(DHA)が、なぜ『頭の良さ』と結びつくのか理解に苦しみます。『頭をよくするためにを青魚食べろ』とは、『貧血の人はレバーを食べろ』と同様の大いなる錯覚です」と書く。著者がこの本で言っているのは一つの食品だけで頭が良くなったり、ダイエット効果があったり、健康になることはないというシンプルで当たり前のことだ。

朝バナナダイエットというアホなダイエット法が数年前に流行した。バナナは食物繊維を含むのでお通じが良くなって体重が減ることは考えられる。カロリーも少ないので、それまで食べていた朝食のカロリーを下回れば、痩せることもあるだろう。だが、ダイエットに効果的な成分が含まれているわけではない。このほか、血液をさらさらにする納豆、骨粗鬆症を防ぐ牛乳、腸をきれいにするヨーグルト、がん予防効果がある緑茶、脳の栄養になる砂糖、コレステロールを下げるオリーブ油などなどを著者は明確に否定し、「『一品健康法』のほとんどすべてが一部の成分だけを取りだして論じるワンパターン」と断じている。

驚くのは著者が「飲尿療法」まで試していることだ。どう考えても排泄物である尿を飲んで健康になるわけはないのだが、これも確かに話題になった。著者によれば、「過去二十数年間で最大の話題」という。著者は吐き気に襲われながら半年余り続けた。映画「127時間」で岩に手を挟まれ身動きできなくなった主人公が渇きに耐えかねて自分の尿を飲み、吐くシーンがあったが、あれと同じことを続けたわけだ。その結果、まったく効果はなかったという。困るのはこうした科学的根拠のない療法でも効果のある人がいること。著者はそれについて「プラセボ(偽薬)効果」としている。

ベストセラー「粗食のすすめ」の著者なので、この本で勧めているのもご飯に味噌汁、漬け物というシンプルな和食だ。そして食事だけでは健康にならないと強調する。「健康は生活全体の問題です。そのなかには当然、食事も含まれますが、食事だけで健康を語れるものではありません」。

200ページほどの新書なのでサラッと読めて、中身も堅くない。著者は管理栄養士、フーズ&ヘルス研究所代表。

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「南沙織がいたころ」

「南沙織がいたころ」

「南沙織がいたころ」

 既にある資料をまとめることにも意味がある。すべての人がその資料を持っているわけではないのだから。著者の永井良和は関西大学社会学部教授。十代のころに南沙織のファンで、当時から集めてきた資料を基に南沙織のデビューから引退、現在までの歩みを振り返っている。ジャーナリストであれば、本人へのインタビューを試みるだろう。それがないのが少し物足りないが、遠くから見つめるファンの視点で南沙織を論じても悪くはない。前半を読んでいると、自分が南沙織のファンだったころのことが次々に思い出されてくる。かつての“サオリスト”にとって、記憶の喚起装置としての機能がこの本にはある。ただ、最終章の沖縄との関係を論じる部分は僕には余計に思えた。

南沙織はフィリピン人の父親と日本人の母親とのハーフと言われていたが、本当の父親は日本人なのだそうだ。フィリピン人の父親が本当の父親ではないということは著書「二十歳ばなれ」(1976年)にも書いてあった。しかし、そこで僕らが思ったのは本当の父親は別のフィリピン人だろうということで、本当の父親が日本人であることを南沙織自身が明らかにしたのは2008年のことだという。

南沙織が歌手として活動したのは1971年からの7年半。山口百恵とほぼ同じぐらいの期間だ。山口百恵が「時代と寝た」と評されたのに対して、南沙織は普通の少女(ordinary girl)であることにこだわった。デビューから1年後の引退宣言騒ぎも、上智大学国際学部に進学したのも、学校に通う普通の少女でいたかったためだ。テレビで見る南沙織を僕は「少し不器用な人」と感じていた。芸能界をすいすい泳ぐ人ではない感じがテレビからもうかがえたのだ。引退がキャンディーズや山口百恵のように派手な幕引きではなかったことも南沙織らしい。

コンサートに行ったのは1回だけ。レコードはLPを2枚とシングル盤数枚しか買っていない。熱烈なファンとは言えないかもしれないが、テレビや本書にも出てくる雑誌「明星」や「平凡」で南沙織の動向は常にウォッチしていた。レコードの売り上げで小柳ルミ子に負けようが、人気で天地真理に負けようが、そんなことはかまわなかった。自分が好きなアイドルが一番である必要はない。

南沙織の言葉で印象深く覚えているのは母親から言われたという結婚相手に関する助言。「ハンサムな人はダメよ」と言われたそうなのだ。「ジャガイモみたいな人がいい」。引退後に篠山紀信と結婚した時に僕はなるほどと思った。

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「癌では死なない 余命宣告をくつがえした医師たちの提言」

「癌では死なない 余命宣告をくつがえした医師たちの提言」

「癌では死なない 余命宣告をくつがえした医師たちの提言」

ここ数日、風邪で病院に通っている。僕がよく行く病院は抗生剤の点滴をよくするところで、6年ほど前、生まれて初めてここで点滴を受けた。今回も既に3回、点滴を受けている。喉が真っ赤に腫れ、体内の白血球数も増加しているので、確かに抗生剤を打つと楽になるのだが、風邪を引くたびにこれを繰り返して良いものかどうか疑問を覚える。体がそれに慣れてしまわないか心配なのだ。

筋力トレーニングの本をよく読んでいた時、筋肉の発達のためには成長ホルモンの分泌が欠かせないのを知った。筋トレをすると、筋肉が傷む。成長ホルモンは傷んだ筋肉を修復し、以前より強い筋肉に成長させる(これを超回復と言う)。成長ホルモンは午後10時から午前2時ごろまでの間に分泌されるが、これを人工的に注入して筋肉を成長させる方法もある。しかし、これが勧められないのは体から成長ホルモンの分泌が少なくなるからだそうだ。恒常的に外部から与えられると、自分で作る力が弱まってしまうのだという。

同じことは病気の時にも言えるのではないか。軽い風邪なら、睡眠と休息をしっかり取れば、本来は体の免疫機能で治る。それを病院に頼って薬で治療すると、体がそれに慣れてしまい、免疫がうまく働かなくなるのではないか。そんな気がしている。こういうことを考えたのは2カ月ほど前に読んだ「癌では死なない」を思い出したから。本書の第2章「腸をきれいにすれば癌が消える」には免疫機能の重要さと、どうすれば免疫を高められるかが書いてある。

われわれの体の中には毎日3000個から数万個の癌細胞が発生している。なのに癌にならないのは免疫機能が働いているからだ。免疫の70%は小腸に、10%は大腸にあり、腸全体で80%の免疫が集中している。だから腸を健康にして免疫機能が正常に働くようにすれば、癌だけでなく他の病気も防げるというわけだ。

腸を健康にするにはどうすればいいのか。著者が挙げているのは(1)食物繊維をたっぷり摂る(2)良質な油を摂る(3)水分を摂る(4)酵素の多い食物を食べる(5)体を温める-の5つ。それとダイエットと同じで低GI食品を心がけた方がいいという。GI(グリセミック・インデックス)は炭水化物の吸収速度を表す指標。血液中に増えた糖は細菌のえさになる。菌が増えれば、マクロファージや好中球が食べてくれるが、この武器は活性酸素のため、正常細胞を傷つけてしまい、癌のリスクが高まるのだそうだ。

つまり癌を防ぐには、ゆっくりと血糖値が上がり、しかもエネルギーになって脳の栄養にもなる低GI食品を積極的に摂ることが重要なのである。これは癌の治療中も同様だ。

このほか、「マーガリンとサラダ油を摂りすぎない」「酸化した油を摂らない」「甘い食物が活性酸素を増やす」などの注意事項が書いてある。ダイエット同様、食生活、生活習慣の改善が癌の予防になるわけだ。

本書の著者はジャーナリストの稲田芳弘、医師の鶴見隆史、理学博士の松野哲也。外科治療と抗癌剤、放射線療法、早期発見早期治療への疑問を提示している。癌で死ぬよりも重大な副作用がある抗癌剤死が多い現実や抗癌剤で癌は完全にはなくならず、最終的には体の免疫機能がカギを握ることが分かりやすく書いてある。本書の内容を過信してはいけないのだろうが、確かに免疫は高めておいた方がいいという気持ちになる。食生活の改善はすべての病気への対処法になるのだろう。

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「ハリウッドではみんな日本人のマネをしている」

「ハリウッドではみんな日本人のマネをしている」

「ハリウッドではみんな日本人のマネをしている」

著者のマックス桐島さんはハリウッド映画のプロデューサーで宮崎県在住。仕事で以前知り合ったので、書店で著者名を見ただけで買った。ハリウッド映画は近年、「仄暗い水の底から」「シャル・ウィ・ダンス」「鉄腕アトム」など日本映画のリメイクや「呪怨」の清水崇など監督の進出が目立ってきたが、映画に限らず、仕事や生活の仕方にも日本文化の影響が出ているという実例を豊富に挙げて説明している。長年、アメリカに住んだ著者でなければ書けない本で、面白く読んだ。

象徴的に取り上げているのはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での日本の連覇。米国内ではあまり関心がないと言われてきたが、ハリウッドではWBCへの注目が高かったのだという。

WBC連覇によって、日本人選手の優秀さだけではなく、日本野球のコンセプトそのものが賞賛されたように、これからはハリウッドもコンテンツを買うだけではなくなるだろう。
コンテンツ以上にその根っこにあるコンセプトそのものを吸収する-。そんな時期に来ているのではないか。いわばハリウッドの「日本化」だ。その流れは、すでにかなり大きなものになっている。

そこから取り上げられている実例はハリウッドでの日本人スタッフの優秀さから始まって、エンタメやアフター5の飲みニケーション、喫茶店、デパ地下、お土産、土足厳禁、自動販売機、温水洗浄式便座、武道、謙譲の美徳など文化、ライフスタイル、精神などのさまざまなものに及ぶ。著者の知り合いの実例もあるからすべてが広範囲とは言えないにしても、これほど日本文化が評価されていることにはやはり驚く。

日本人としては日本文化の利点が理解されて嬉しい限りだが、ちょっとひいき目に見ている部分もあるだろう。文化が伝わる際にはその国の実情に合わせて伝わることが多いからだ。タイトルにはマネとあるが、良いものを積極的に取り入れることはマネではなく、さらに良くしたいという思いがあるからだと思う。ハリウッドが世界最大の夢の生産基地であることは今も変わらないし、さらに面白いものを作ろうとして日本に限らずさまざまな国の映画を取り入れるのは企画の貧困さだけからきているものではないだろう。

それに文化の吸収は日本が得意としてきたもの。アメリカへの日本の影響よりも日本へのアメリカの影響の方が今でもずっと大きいだろう。アメリカが日本文化やライフスタイルに興味を示していることは相互理解が深まることでもあるから悪いことではないけれど、今、日本やアメリカが相互理解に努めた方がいいのはイスラム圏の国々ではないかとも思う。

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「しがみつかない生き方」

「しがみつかない生き方」

「しがみつかない生き方」

オリコンスタイルの「2009年年間本ランキング」で総合13位、新書では2位に入っている。38万7797部売れたのだそうだ。内容は軽い読み物、エッセイという感じだが、精神科医の立場・経験から世間一般の考え方に異議を呈し、一つの価値観に縛られない生き方を求める視点は面白い。欲を言えば、もう少し掘り下げた内容、示唆が欲しいところだ。内容が分かりやすいので売れているのだろうか。著者の香山リカは今年はこの1冊だけだったが、昨年は9冊、一昨年は6冊と著書の刊行ペースが凄い。

サブタイトルは「『普通の幸せ』を手に入れる10のルール」。そのルールが10章にわたって書かれている。目次を見れば、この本の内容は分かる。第1章「恋愛にすべてを捧げない」第2章「自慢・自己PRをしない」第3章「すぐに白黒つけない」第4章「老・病・死で落ち込まない」第5章「すぐに水に流さない」第6章「仕事に夢を求めない」第7章「子どもにしがみつかない」第8章「お金にしがみつかない」第9章「生まれた意味を問わない」第10章「<勝間和代>を目指さない」。

第1章では演劇にのめり込み、エネルギーに満ちた女性がいいかげんな恋人を持ったことで精神的な病気になっていったのを例に挙げている。メールを出しても返事をくれない、親に紹介したいと言うと、「冗談じゃない」と言う男。彼女はこれによって「食事がまったく喉を通らず、朝起きれない」「こんな毎日ならもう消えた方がいいかも」と言うようになる。恋愛がうまくいかないことで、自信を喪失していく女性は「運やタイミング、賭けの要素も大きい恋愛のような経験があまりなく、『努力すればした分だけの成果、評価が得られる』という勉強や仕事の世界にどっぷり浸かっていた人」に多いのだそうだ。

著者のアドバイスは極めて当たり前のことで、「恋愛でつまづいても、すぐに『すべては無意味』と思わない。『私は寂しい』と決めつけない」ということである。著者も指摘しているが、テレビや雑誌で毎日おびただしい量の恋愛ものに触れていると、「恋愛がすべて」と思ってしまう女性が生まれることになるのだろう。

第10章の「<勝間和代>を目指さない」は最近、新聞や雑誌で取り上げられている。「競争社会の成功者」であるアナリストの勝間和代の著書(ここでは主に「断る力」)に疑義を呈し、勝間和代のように殺到する仕事の依頼を断る力よりも仕事の依頼がなく「耐える力」を必要としている人が多いという指摘はもっともだ。すべての人が勝間和代の本を読んで成功者になれるわけがない。なれない人の方が圧倒的に多いだろう。

病院での経験から私が気づいたように、人生が思い通りに展開していない人の多くは努力が足りないわけではなくて病気になったり勤めた会社が倒産したり、という“不運な人”なのだ。たとえ、努力不足が挫折や失敗の原因であったとしても、丹念にその人生を振り返ると、そもそも家庭環境などに恵まれず、努力しようにもできる環境になかった、という場合が多い。そして、依頼殺到の人気者の側にいるか、誰からも相手にされない絶望や孤独の側にいるかは、本当に“紙一重”だと私は思う。

努力すれば夢はかなう場合もあるけれど、どんなに努力しても夢を実現できないケースもある。アメリカ映画によくあるアメリカン・ドリームにしても、ごく一部の成功の事例が普遍化することはあり得ないのだ。競争社会においてそういう夢を実現するケースを夢として持つことも必要だけれど、現実は厳しい。著者のスタンスは成功者になれなかった人の立場にあり、その方が僕には好ましいと思える。

勝間和代はTwitterで「ちなみに私は、@kohmi(広瀬香美)とも会話になりませんが、香山リカさんとも会話がすれ違って、困ります」とつぶやいていた。当然だろうなと思う。

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